第3章 雨担当の憂鬱〈完〉
~家康side~
「来て」
「…は、い」
さっと葵に背を向け自分の部屋へと歩いていく
その後ろを少しの間を開けて歩いてくる気配に嘆息する
怖がらせるつもりも、無理強いをするつもりもなかったんだけど…
これまで葵に向けられたことのない、
恐怖を色濃く映した目線も
無意識にだろう他人行儀な言葉づかいも
このまま放っておくことなど自分にはできない
そうさせたのは自分なのに、恐怖も不安も取り除いでやりたい
余裕のない自分に笑わずにいられなかった
自分の部屋の襖を開けて、先に中に入るように促す
「座って待ってて」
自分は部屋に入らずに、廓でお茶の準備をする
華やいだ香りのするお茶で
葵が好きだろうと少し前に準備しておいたものだ
だが、そのお茶さえ自分には容易に飲ませてやる事ができない
「葵の好きそうなお茶を買ってきたから一緒に飲もう」なんて簡単にいえるのだろうなと兄貴分の武将達を思い浮かべ、自分の性格を恨む
二人分のお茶を用意して部屋に向かうと、葵は落ち着かない様子でうろうろしていた
怖がらせないように襖を開け放ったまま、中に入っていく
「座って」
「は、はい」
「はい、これ飲んで」
ずいっと湯飲みを渡す
「あっありがとうございます」
お茶の香りに表情が緩むのを目の端にとらえ、ホッとする