第3章 雨担当の憂鬱〈完〉
翌日
軍議が終わり、家康は早々に広間をでる。
もちろん蘭丸と顔を合わせたくないからだ。
だが、少し廊下を進んだところで、蘭丸に呼び止められる
「家康様!」
仕方なしに足を止め、顔を横に向けただけで返事をする
「なに?」
「昨夜はご挨拶もせずに申し訳ありません。
一日葵様との外出を許可いただきありがとうございました。」
「別に、あんたに礼なんて言われる筋合いないけど」
「あれ?家康様、飾り紐は?」
「なんのこと?」
「昨日葵様から渡されなかったんですか?」
「?」
「早く渡したいって言ってたから、帰ってすぐ渡したと思ったんだけどな…。
昨日でかけた時に、家康様にさしあげる飾り紐を葵様が作ったんですよ。聞いてないですか?」
「…」
「あれー間違えて先に言っちゃったってことかな?
葵様から聞くまで内緒にしてくださいね!
それにしても、家康様が羨ましいな。
葵様一生懸命作っていたんですよ。
お守りにもなって邪魔にならないものを家康様に贈りたいって。
『こっそりお揃いにしちゃえば?』って俺がいったら、真っ赤な顔して『それならいつも一緒にいられるね』っていうんですから~。こっちが恥ずかしくなりました。
葵様用は飾り紐を花形にして簪にしたんです。昨日帰ったときにつけてたでしょう?似合ってましたよね!」
「……」
「家康様?」
「いや、昨日は世話になった。」
「いえいえ、御殿での生活も楽しいっていってましたよ。
家康様がいらっしゃるからでしょうけどね。
それより俺が先に言っちゃったこと内緒にしてくださいね」
「分かってる」
『じゃー葵様によろしくお伝えください~信長様へのお土産は俺から渡しちゃうんで!』
と明るい声で言って去っていく蘭丸を見送りながら、
昨日自分が葵に対してした仕打ちを思い返す
最低だ…
葵の話も聞かず責めて怖がらせて泣かせた
踵をかえし足早に廊下を進む