第3章 雨担当の憂鬱〈完〉
夕刻
静まり返っていた御殿に明るい声が戻ってきた
「葵ついたよー」
「蘭丸、今日は一日ありがとう。すっごく楽しかった」
「どういたしまして。俺もすごく楽しかった。みちは気分転換になった?
また俺と出かけてくれる?」
「もちろん!色々なところに連れて行ってくれてありがとう」
「じゃあ、今日は家康様にあいさつしないで帰るね。明日城でお会いした時に御礼を言う様にするから」
「うん、そういっておく」
「葵明日はお城にこれそう?」
「んー家康に聞いてみないと分からない」
「明日迎えにこようか?」
「ううん、大丈夫。お城に行っていいなら、朝、家康と一緒にいくから」
「そう、わかった。信長様へのお土産は葵と一緒に渡したいから」
「喜んでくれるといいね」
「みちと俺からのお土産なんだから絶対喜んでくれるよ!」
「だといいな。あっ着物…」
「その着物は貰ってくれると嬉しいな。今日一日付き合ってくれたお礼。」
「わぁありがとう。大切にするね」
「じゃー葵またね!」
「うん、蘭丸も気をつけてね」
葵が帰ってくるまで落ち着かずにいた家康の耳に
楽しげな二人の声が聞こえていた
葵?蘭丸?
出かける時は葵様、蘭丸君と呼び合っていたはずだ。
随分一日で仲良くなったようだね…
「ただいま家康!ここにいたんだね。」
葵が朝と同じ笑顔で庭に立つ家康のところまで走ってくる
「蘭丸くんが挨拶は明日にしますって!
一日外出させてくれてありがとう
あのっ家康…」
葵が恥ずかしそうに何かを言いかける
それを遮るように口をひらいた
「うる、さい、、」
「え?」
「帰ってきて早々キャンキャンうるさいんだよ
せっかく久しぶりに静かな時間が過ごせてたのに」
「あっごめん、なさい」
その時葵が助けを求めるように
簪に手をやるのが見える
朝出る時はつけていなかった
ということは、蘭丸に与えられたものだろう
一緒にえらんで葵の髪に指してやる蘭丸
それに恥ずかしそうな顔で身を任せている葵
そんな光景が目に浮かぶ
もしかしたら、身体を重ねてきたのかもしれない
許せない
ギリっと歯を食いしばる