第3章 雨担当の憂鬱〈完〉
翌朝、早いうちに蘭丸がやってきて葵を町娘に着替えさせた
髪もいつもと違う様に結っている
蘭丸自身も葵にあわせ、そろいのいで立ちだ
「まぁ何ともお可愛らしい二人ですこと。葵様の髪は蘭丸様が?」
「そうなんです!私なんかより上手でびっくりしました!この結い方可愛いですよね。」
「本当ですね。さすが蘭丸様は葵様に何がお似合いかよく分かってらっしゃる。」
葵の着替えを手伝っていた女中が二人のやり取りに目を細めながら去っていく。
「気に入ってくれて良かった。
葵様の髪はとても綺麗だから結いやすいね。
城に戻れるようになったら毎日でも結ってあげる!」
「わぁ楽しみ!蘭丸君、その着物すごく似合う!」
「ありがと!葵様もとっても可愛いよ。
これ、俺が選んだんだけど思っていた以上に似合ってて素敵だよ。
困ったな変装のためだったんだけど…可愛いから目立っちゃうかも。」
「もう蘭丸君ったら」
「朝餉はね、馬の上で食べながらゆっくり行こう!」
「私、馬に乗れないよ…」
「ぜーんぜん大丈夫。一緒に乗っていくから。」
「迷惑かけてごめんね。」
「迷惑なんてことないよ。
最初から一人で馬に乗せるつもりないから。女の子なんだからいいんだよ。」
「ありがとう。…外に出て本当に大丈夫かな?」
「大丈夫、何かあっても俺が守るよ。安心して。ね?葵様、俺に守られてくれる?心配?」
「ううん、蘭丸君がいてくれるから大丈夫だよね!」
「もちろん!じゃ出発しようか。」
「あっ家康に声かけてくるね。」
「じゃ先に馬の準備してるから。」
「うん。すぐ行くね。」
なんなんだあいつらは…うっとおしい
庭でワサビにエサをやっていた家康は、
聞こえてくる二人の会話が恋仲同士の会話に聞こえて無性に苛立っていた
そして、蘭丸の言葉が自分のように曲がっていないことに羨ましさを感じていた。
どうして俺はあんな風に素直に褒めたり、慰めたりすることができないのか…