第10章 打ち上げ
「おい、店員があいつら睨んでるぞ」
「私は何も見てない…」
「お前らしーわ」
そう言ってくしゃっと音がしそうなくらい破顔した大輝。
こんな満面の笑みで笑うところ、久しぶりに見た。
最近は仏頂面してることが多かったのに…。
「大輝、何か良いことでもあった?」
「あ?なんだよ急に」
「今日の大輝、楽しそうだから」
「…あー、まあな」
「体育祭優勝したから?リレーも白団に勝ったしね!」
その途端、大輝と、一番奥にいる黄瀬が同時にコップを倒した。
中に半分ほど入ってた水がテーブルにぶちまけられる。
「うおっ!」
「あ~…やっちゃったっス…」
「ちょっ、拭かなきゃ!さつきー!そっちにあるおしぼり頂戴!」
何で一斉にコップ倒したの!?
タイミング良すぎだろオイ!
「ほら!黄瀬も拭いて!」
そう言って黄瀬に向かっておしぼりを差し出した。
すると黄瀬は顔を強ばらせて、引きつった笑みを浮かべた。
しかし次の瞬間、「了解っス」なんて言ってパッとおしぼりを受け取り、テーブルを拭き始めていた。
……何故だろう。
黄瀬の私への態度が急におかしくなった。
私、黄瀬に何かした覚え無い―――
その時、不意に真雪の言葉を思い出した。
『黄瀬くんの気持ち分かってあげてよ』
そう言って苦しそうな顔をした真雪。
まさか、と思い当たることがなかったわけではない。
だけど気づきたくなかった。
もし本当にそうだとしたら、
私は黄瀬とはもう、友達でいられなくなっちゃうんじゃないの?
そんなことになるんだったら、私は黄瀬の気持ちなんて分かってあげない。
酷いことかもしれないけど、私は「友達」を失いたくないから。