第14章 ガードマン
混んでいる購買から必死に抜け出すと、入り口の近くにイライラした表情の黄瀬くんを見つけた。
「お待たせしましたー!」
「大丈夫っスよ」
私が近づいた途端に営業スマイルを浮かべ、パンの入った袋を持とうとする黄瀬くん。
その手からすり抜けてみせると、彼は驚いた表情を見せた。
「黄瀬くん、そっちの方が人間味ある顔だね」
「え?」
「営業スマイル。癖になってるでしょ?直したら?」
更に驚いた表情をする彼は、やっぱり営業スマイルを浮かべている時より良いと思う。
こういう表情の方が、普通の1人の男の子である黄瀬涼太って感じがする。
私が見てきた中で彼がちゃんと笑っているのは、いつもの奴らとさっちゃんと、瑠衣といる時だけ。
バスケ部の奴らはともかく、そこに瑠衣が入っている理由なんて1つしかないでしょ。
「黄瀬くん、瑠衣のこと好きだよね」
「………」
…あれ?
な、何かリアクションが想像と違うんだけど…。
「驚かないの?」
「いや、バレバレだって自覚はあったし、隠すつもりも無かったっスから…」
「あ、そうなの?」
「…というよりか、」
何かを言いかけ言葉を切られた。
言って良いのか、と悩んでいるのだろう彼に、悪魔の囁きをしてみようか。
「瑠衣には絶対言わないよ」
「………俺、瑠衣っちのこと本当に好きなのか分からなくなってるんス」
「…それはどうして?」
また迷った表情を見せる彼を、微笑みを作りながら待つ。
苦しそうな顔をしながら、彼はポツポツと話し出した。
「瑠衣っちと青峰っち最近仲良くて、俺の入る隙がだんだん無くなっていって…」
「うん」
「俺って結構飽きっぽいから、長い間1人だけを好きでいることなんて出来ると思えないし」
「…うん」
「だから、多分もう、瑠衣っちはいいかなって感じなんスよ」
「…え?」
「もっと俺に合ってる子がきっといるし「何それ…」
思ったよりも低い声が耳に入り、自分の声だと分かるまで時間がかかったと思う。
そんなことも分からないくらい、私の頭には怒りが渦巻いていた。
「その俺に合ってる子っていうのは、『俺の都合』に合ってる子?」