第9章 出逢い
この狸から出てくるとは思ってもみなかった単語に驚き、思わず声を荒らげてイマリに手を伸ばしたら捕まえる前に茶釜の中へ逃げられた。…これは、俺と官兵衛だけで聞いていい話ではなさそうだな。
「…官兵衛、今すぐに皆を大広間に呼んで。」
「承知しました。」
ガタガタ震える茶釜を抱えて一足先に大広間へ向かう。心臓が痛い程に高鳴った。イマリと名乗るこの狸が、を居場所を知っているかもしれない。その期待が胸に膨らむ。
やがて半兵衛も含め全員集まった頃。再び俺は茶釜を叩いた。
「さっきは怒鳴って悪かったよ。あんたの話を聞かせて欲しい。出て来てくれない?」
逸る気持ちを隠し出来るだけ優しく問いかける。するとイマリはゆっくりと顔を出してくれた。
「吸血鬼がこんなに……。」
「うおっ、本当に喋った!」
「これは興味深いですね…。」
「うわ〜、ふわふわだね!」
「こらこら。今は細かい事は置いておいて、このタヌキの話をちゃんと聞かないと。唯一、の手掛かりを持っているのかもしれないんだから。さっき言ってた文は?」
「これです。さんが、黒髪の人に渡せば分かるから、と言われました。」
イマリは茶釜の中から1枚の紙を取り出した。それを官兵衛へと渡す。全員で紙を覗いてみたけれど、なんて書いてあるのかは正直分からない。神牙の文字ではない事は確かだけど…この文字がのものかどうかまでは断定出来ないな。
「…本当にからの文なの?」
「ボ、ボクはただ預かっただけなのでなんて書いてあるのかはわかりません…。」
「確かに、彼女のものだな。間違いない。」
「なんで分かるんだ?」
利家が問いかけると、官兵衛は懐から本を取り出した。それに何か秘密が…?そう思ってまじまじと見てみれば官兵衛がある一点を指さす。そこには、届いた文と全く同じ文字列が書かれていた。
「以前、彼女に書いてもらったものだ。これは私の名だな。」
「なるほど、それでこの狸は黒髪の人に渡せば分かる、と言っていたのですね。だとすれば、本当にさんに繋がっている可能性はかなり高いかと。」
「そうだねぇ…それなら、は今何処にいるの?文を預かっているなら場所分かるでしょ?」
「分かります!けど…教える事は出来ません。」