第9章 出逢い
私は片足を庇いながら机へと向かった。引き出しを引き紙と筆を取り出す。ただ文章を書いたところで私の字はきっと彼らには分からない。けど絶対に分かってもらえる言葉が一つだけある筈だ。
筆に墨を取り、私は紙に【黒田官兵衛様】とだけ綴った。不思議そうにイマリがひょっこり顔を覗かせてくる。
「この紙を、黒い髪の男に渡せば私から本当に伝言を預かっているんだって、伝わると思う。怖いと思うけど、どうしても秀吉さん達に伝えて欲しいの。お願い出来る…?」
「…分かりました!ボクに任せて下さい!」
「ありがとう!」
自分の身の危険があるにも関わらず彼は頷いてくれた。その心遣いが嬉しくて思わずぎゅっと抱き締める。…あ、凄いふわふわ。私はイマリに、無事生きている事と、今は別の領地で治療中である事、必ず戻るから探さないで欲しいという旨を伝えて官兵衛さんの名前を書いた紙を折って渡した。これできっと、大丈夫。
「宜しくね、イマリ。」
「はい!また治ったら一緒に姫神子様を探しましょうね。今は休んで下さい。」
「うん、絶対姫神子様を見つけようね!」
イマリは強く頷くと、襖の隙間から走って行ってしまった。どうか、言伝が彼らに届きますように。
私は布団へ戻り仰向けに寝転がる。さて、明日からどうしよう…。何かここで出来ること。まだ立ち上がるのは少し辛いし…うーん。あ、縫い物くらいなら出来るかも。後で幸村さんが来た時にでも修繕する必要があるものが無いか聞いてみよう。
何かこの世界に来てから随分適応能力が付いてきた気がするな。今は豊臣軍の人達と離れて少し寂しいけれど、きっと帰れる。そう信じて今を生き抜くと心に強く誓った。