第8章 転機
異常なくらい長く感じる浮遊感後、私たちの体は川へと落ちたらしい。そしてそのまま体制を整える事すらままならず流されて行く。水流はとても速く、抱き締めていた腕は解かれ、辛うじて手を握っている状態だった。
「っーーぷはっ!半兵衛く…!」
岸に上がることすら出来ず息継ぎをするだけで精一杯。そんな時だった。私の体力が、限界を迎えてしまったらしい。繋いでいた手が、離れてしまった。
「ちゃん!!」
半兵衛くんの、私を名前を呼ぶ声を最後に、彼の姿も見えなくなった。
漸く、水の流れも落ち着き岸へ捕まり強引に体を持ち上げる。水を吸った着物がとても重く、濡れた身体は震える程寒い。しかも、荒い岩肌で深く足を切ったらしい。暫く立つのも難しいかもしれない。…ここで私死ぬのかな…。そんな不吉な事を考えてしまう。
遠くから足音が聞こえた。この音が、どうか官兵衛さんか半兵衛くんのものでありますように。
切な願いを抱えながら私の意識はそこで途切れた。
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幸村視点
最近広まっている噂の真相を確かめるべく、豊臣領へ向かう途中。どうやら俺は近くの森へ入ってしまったらしい。困ったなぁ…余り遅くなるわけにはいかないし、出来れば豊臣軍に出会う事も避けたい。辺りも暗くなって来たし今日はここで1度野宿するのが妥当かな…。丁度近くに川も流れているみたいだ。
馬から1度降り、手網を引いて綺麗な川の流れる岸まで向かい水を飲ませる。こんな長旅に付き合わせちゃって悪いな。
「佐助、今日はここで1度休もう。日が出たら直ぐに進むぞ。」
「そうだな、んじゃあ魚でも取って…ーー幸村!あれ見ろ!」
「ん?…ーなっ、女の子!?」
川辺に倒れていたのは、女の子だった。どうしてこんな所に…。直ぐに馬を木に繋ぎ、駆け寄ろうとした所で辺りの空気が震えた。