第7章 突撃
「いいよ、大丈夫。」
「…分かった。本当にメチャクチャにしちまったら悪い。でも、できるだけ優しくする。」
利家の両腕が背中へ回された。強く身体をかき抱かれ、着物がずらされると肩へ熱い吐息が触れる。
「いく、ぜ……。」
細い牙が、どこか恐る恐る肩へ突き立てられた。続いて、血を吸われていく感覚が甘い痺れとなって体にじわりと広がった。何度経験してもこの感覚だけは、全然慣れない。思わず身じろぐとエメラルド色の瞳と視軸が絡み、両腕を大木へ押し付けられ逃げ場を無くす。
「ふっ……ん、利家…。」
「…っ、は…逃げるんじゃねぇよ。あと、もう少しだけ…。」
聞いたことのないうっとりとした声音に羞恥が募る。利家がこんな声出すなんて…!
静かな森に、血液を啜る音と嚥下する小さな音がただ響く。腕を掴まれてしまったせいで、縋ることすら許されず微弱な快感とも取れる感覚を押し殺すように唇を噛み締めた。
やがてぬるりとした舌が肩口を這い漸く唇が離れる。…今まで1番長かった。
「……大丈夫、か…?」
「ッ……ん。平気…利家は…?」
「あー、オレは……ってうぉ!?な、なんだこれ!?身体が…!」
ぴかっ、と利家の身体が光る。この眩しさにも慣れない。目を閉じて、開いた頃には姿の変わった利家が立っていた。綺麗な黒い髪に、黄色の瞳。ちゃんと覚醒出来たらしく、傷も見る限りでは塞がったらしい。良かった…!
「すげぇ……さっきの傷も全部治ってやがる!それになんだ、これ!?姿まで変わってるぜ!秀吉や三成が言ってた事は本当だったんだな!」
無邪気にはしゃぐ姿にほっと息を撫で下ろし私は自分の着物の襟元を正した。本当に彼は楽観的なんだから。
「これならまだまだ戦えそうだし…よっしゃ!このまま逃げた長秀達を追って…」
「何言ってんの!早く豊臣領に帰るよ!」
「……なんだよ、だめなのかよ。折角回復したのに。もったいねえなぁ…。」
「いい加減自分の身体を大切にしてってば。私の話ちゃんと聞いてる?」
「いててて、分かったって!ちゃんと帰るから。」
あまりに無鉄砲過ぎる利家の片頬を抓ると、渋々といった様子で頷いた。全く、心配して損する。
「…ありがとな。」
「…守ってもらったのは私の方だよ。まだまだ鍛錬が足りないなぁ。」
「これからもお前のこと、オレが守るから安心しろよ!な?」