第7章 突撃
背後から複数人の男に飛びかかられ、腕を拘束される。持っていた刀は地面に落としてしまった。
振り返った利家は大きく目を見開き、長秀さんは余裕の表情で鼻を鳴らす。
「兵を相手に刀を奮うとは、女の癖にとんだじゃじゃ馬じゃねぇか。…悪くねえ。女は尋問の為に生かしておいてやる。だがな、利家。お前だけは…」
「…………せ。」
「………?」
「…そいつを放せよ。」
放たれた声は利家とは思えない程静かで、怒気を含んでいた。私まで、ぞくりと背筋が震える程に。同時に、刃を交えてした長秀さんを跳ね返す。
「なっ……!」
「利家!」
「…悪い、やっぱ、約束守れねえや。オレには…無茶を押し通してでも戦うことしかできねえ!てめぇら!!!そいつに触んじゃねぇ!前田利家……推して参るぜ!!」
「なんだ?いきなりやる気じゃねぇか。そんなにあの女が大事か?」
「へっ、いつまで無駄口叩いてるつもりだ!?そんな余裕、あると思ってんのかよ!!おらああああああ!!」
「ぐああっ!」
利家はまるで檻から解き放たれた獣の如く、辺りの兵士たちを斬り伏せていく。凄い…これが、武将…!その圧倒的な力に、長秀さんは苦虫を噛み潰したように顔を歪めた。
「……機を逸したな。手負いの獣ほど、面倒なものはねぇな。豊臣の領地にも近づき過ぎた…。」
「さぁどうすんだ、長秀!サシでオレとやるか!」
「ちっ…。もういい、追撃中止!織田領まで撤退する!」
その合図で、織田軍の兵は怪我人を連れて本当に撤退して行ったのだった。良かった…。
相手が見えなくなったその途端、ふらりと利家の身体が傾く。私はすぐその身体を支えた。
「はぁっはぁっ…見たかよ。あいつら全員、撤退させてやったぜ。」
「…ありがとう。利家が一緒に居てくれて良かった。」
「おいおい、礼を言うならもっと嬉しそうな顔で言えよ。そんな悲しい顔すんなって。」
悲しい顔して、当たり前でしょう。目の前で大切な人が私のせいでこんなに傷だらけになってしまったんだから。私は、利家の頭を思い切りかき抱いた。
「血、飲んで。じゃないとこのまま離さないから!」
「っ…お前なぁ…!」
「無茶しない、って約束破ったでしょ!このお願い位聞いて…。」
「……分かったよ。けど、本気で加減が利かなくなるかもしれないぞ。それでもいいのか?」