第7章 突撃
そろりと足を忍ばせ小屋の外に出る。緊張からか、呼吸すら震えた。そうやってこっそり小屋を出た矢先、月の光が良く映える綺麗な銀色の髪をした男が現れた。耳が尖っているから、多分吸血鬼。私は咄嗟に利家の後に庇われる。織田軍だというのは見て取れるけれど、ただの雑兵では無さそう。
「…久しぶりだな、利家。」
「ちっ……たく、もう追い付いてきたか。長秀。」
おかしい。もっと複数の足音が聞こえてきたと思っていたけれど…今目の前にいるのはこの男一人だ。名前と所属軍から察するに多分、丹羽長秀だろう。
それにしても凄い美形だ。相変わらず出会う武将一人一人顔が整い過ぎてると思う。
「あー、くそ。本当に腹立つツラだぜ。出てったはずのお前が、なんで織田の領地にいるんだよ。」
「はっ!だったらなんだ、オレと喧嘩でもするか?ほら、かかってこいよ!」
「上等だ。喧嘩ならいくらでもしてやるさ。でもな、俺はめんどくせぇ事が嫌いなんだよ。」
長秀さんがすっと手を上げると村の建物の陰から織田軍の兵士たちが現れた。その手には弓矢が。
「っー!しまった、隠れーー」
「……放てっ!」
「!」
「っ…!!」
気付いた頃には遅く、私の身体は突き飛ばされていた。お陰で矢からは逃れる事は出来たが尻餅を付き直ぐに顔を上げると、利家の体に深々と矢が刺さっていた。一気に血の気が引く。私を庇って…!!
「や、辞めて!!」
「…っ!……女!?」
ずっと利家の背後に守られていたからか、長秀さんは私の存在にも気付いていなかったらしい。今度は私が利家を庇おうと前に立つと驚くように目を見開かせた。
「なぜこんなところに女が…」
「ーーっ、隙あり!」
「なっ…!!ぐぅ…っ!」
私の後から大きく斬りこんだ利家に、長秀さんが大きくよろめいた。胸から腹に掛けて服が破れ、赤い血の線が浮かび上がる。
「ちっ!勝家とやり合うだけの力量は健在というわけか…。弓兵!第2波、準備急げ!」
「はっ。そんなものでこのオレを殺せるかよ!」
挑発的に声を上げた利家にグッと背中を押される。慌てて振り返ると額には脂汗が滲んでいた。当たり前だ、矢が身体に刺さってるんだから…!
「利家っ…!」
「オレが盾になる!後ろは気にせず走れ!」