第6章 逢引
「んー…あ、それじゃあさ、俺がこの簪を着けてるあんたを見たいんだ。それならいいでしょ?すみませーん!これ下さい!」
「ええっ!?ちょ…!」
制止の声を無視して綺麗な花飾りの付いた簪を購入する。今言った事は本心だし、何より俺からの贈り物をが身につけると思うと何となく、気分が良い。独占欲が満たされるのと似たような感覚。
「はい、ちゃんと使ってよー?」
「秀吉さん、お金使う事に躊躇無さすぎ!でも…ありがとう、嬉しい。大切にするね。」
簪の入った箱を手渡す。は少し呆れた顔をしたけれど、直ぐに頬を綻ばせて大事そうに箱を胸に抱いた。……この笑顔が見られるなら全然安い買い物だよ。
それから色んな呉服屋や骨董屋などを見て周り辺りはあっという間に暗くなってきてしまった。けど、帰るにはまだ惜しい。もう少しを独り占めておきたい。
「…、少し森の方行ってみようか。城の近くに広い湖があるんだ。季節の花が咲いていて、凄く綺麗なんだよ。」
「そうなの?行ってみたい。」
城下町から離れ、近くの森へと進んでいく。…この時間に森に来ると、の血を初めて飲んだ時の事を思い出すな。
「…ここに来ると、秀吉さんと逃げ回ってた時のこと思い出すね。」
「奇遇だね、俺も似たような事を思ってたよ。」
「今だから言えるけど、戦場に女を連れて行くなんて最低って思ってた。」
「…そんなに?」
「だって怖かったもん!人が目の前で死ぬところなんて初めて見たし!」
「ははっ!そうだよねぇ。ごめんごめん。」
今でこそ分かる。は戦とは完全に無縁な世界で生きていたんだもんね。確かに凄く怖い思いをさせてしまっただろう。それでも、そんなに怖い状況でも刀を持って一緒に戦おうとしてくれた彼女に俺は惹かれてしまったんだけど。
ほど無くして湖に付いた頃には、辺りは真っ暗になっていた。今夜は満月か…。俺が空を眺めていると、隣からは感激したような声が聞こえる。
「うわぁ、すっごい!広い!!星が綺麗!」
「はしゃぎすぎじゃない?」
「だって、この世界のものって私の見たことないものが多いし、こんなに星が綺麗に見えるなんて知らなかったから!いつも夜はバタバタしてたりすぐ寝ちゃってたし。」