第1章 ゆめうつつ
「ここがあんたの部屋ね。好きなだけ寛いでくれていいよ。着替え持ってきてあげるから待っててねー。」
それだけ残すと秀吉さんは三成さんの名前を呼びながら部屋から出て行ってしまった。私の格好はといえば、ラフなTシャツにショートパンツ1枚。その上草原に横たわっていたせいか、泥だらけだ。
…それにしてもやっと落ち着いた気がする。三成さんっていうのは石田三成、かな。しかし、私はなんで戦国時代に来てしまったんだろうか。確かにずっと憧れてはいた。どうせ生まれるなら戦国時代に武将として生まれたかったとも思っていた。けど、まさかこんな形で武将を目にする事になるなんて…。
どうしたものかと首を捻ったその時、部屋の隅で何か白いものが蠢いた。
「!な…なに…?」
「良かった…!やっとゆっくり話が出来る!」
「狸が喋った!?」
ふわふわなそれは、まるで足軽のような姿をしたぬいぐるみのような狸だった。アニメのマスコットとかに居そう。大きな瞳をキラキラと輝かせ私の近くに寄ってくる。
「ボクはイマリと言います!あなたとふたりきりで話すには、あの吸血鬼がいない今しか無いと思って…。」
「き、吸血鬼…?」
また随分ファンタジーなものが出てきたな。いや、喋る狸が現れた時点で相当ファンタジー過ぎる。可愛いけれど。戦国時代じゃないの?中世ヨーロッパなの?なんなの?
「どうか、あなたの力をボクに貸して下さい…!」
イマリと名乗る狸くんの言っていた事を要約すると、ここは【神牙】という国らしい。この時点で意味が分からない。【姫神子】様という人のおかげで平和な世が続いていたけど、その人がいなくなったらしい。イマリは姫神子様から『異世界から来た娘を探せ』と言われて、私を探していていただとか。
…つまりこの世界はそもそも日本で無ければ戦国時代とも別の何からしい。豊臣秀吉とか、歴史上の人物は居るのに。変な感じだ。