第1章 ゆめうつつ
「あなたは、姫神子様を探す唯一の手掛かりなんです!どうかあなたの力を貸してください!」
確かに、私が倒れる前聞いたことのない女性の声がした。あの声がもしも姫神子様のものだとしたら…もとの世界に戻せるのもこの人しか居ないのだろう。
「…うん、私も元の世界に帰らないといけないし手伝うよ。どうすれば良いのか全く分からないし、そもそもこの世界についてまずよく知る所から始めないとだけど。」
「ありがとうございます!じゃあまずは……はっ!吸血鬼が来る!」
「吸血鬼って……あっ。」
隠れた。吸血鬼って、何なの?この世界には武将の他に吸血鬼が居るの?疑問を解消することも出来ないまま、部屋に秀吉さんが戻ってきた。それはもう綺麗なお着物を持って。
「お待たせー。着替え持ってきたよー。」
「ありがとうございます。」
秀吉さんの顔をマジマジと見てみる。美形だと思う。…いや、そうじゃない。確かに言われてみれば耳は尖っている気がしなくもない。けど戦国武将が吸血鬼…?でも全く異世界の事なら有り得る話なのだろうか…。
「何、そんなに見詰めて。俺の顔に見とれちゃった?」
「違います。」
……そんな事より、この人チャラいぞ。
「ふぅん…それは残念。この着物に着替えたらさっき通った大広間に来てくれる?これから戦の話し合いをするからにもぜひ参加してもらいたいんだ。」
「え、私が軍議に参加しても役に立ちませんよ?」
「いいんだよ、が居たら面白そうだなーってだけだから。仲間も紹介したいし。そういうわけで、よろしくねー。」
それだけ残しひらりと手を振って再び部屋を出ていった秀吉さん。私は受け取った着物に視線を落とし深々と溜息を吐き出した。兄との勝負は暫くお預けか…。運が良ければ、ここの人達に稽古つけて貰えるかな。それはそれで経験を積めるかも。
泥まみれになった服を脱ぎ捨て着物に腕を通す。……あれ、これ相当上等なお着物な気がするんだけど…。まぁいいか。
こんな所で着付けの練習が役に立つなんて思いもよらなかった。しっかり着終えて襟元を正し、手首に付けたままの髪ゴムでポニーテールに結い直す。これから私は一体どんな生活をしていくハメになるんだろう。
拭い切れぬ一抹の不安を抱えながら、大広間へと足を運んだ。
序章
-了-