第1章 ゆめうつつ
「で、ですが…!」
白髪の人が狼狽えるのも無理は無いと思う。私が同じ立場だったら賛成は出来ない。困惑してしまい他の人に視線をくばせてみたが、何も言うことは無かった。
「さぁ、みんなー!帰る準備だー!」
号令1つで周りにいた兵達も声を上げる。利家と呼ばれていた人が指揮をとり兵を取り纏める中、豊臣秀吉が笑顔で向き直って来た。よく見たら、肩に小さな猿が乗ってる。
「俺は豊臣秀吉。あ、この猿はとうきちね。余ってる馬は残念だけれどいないから俺と一緒に乗って。」
「え…っ、わぁ!」
不意に足の下へ腕を差し込まれたかと思えばあっさりと身体を横抱きにされる。この歳でこんな事されるなんて思ってもみなかったから恥ずかしい。そのままあれよあれよという間に綺麗な毛並みをした馬の背へ強引に乗せられその背後に秀吉さんが飛び乗った。
「しっかり捕まって。振り落とされないようにね!」
「そんな事急に言われても…きゃっ!」
秀吉さんが馬の腹を蹴ると、勢い良く走り出した。私乗馬の経験なんて無いんですけど…!!何処に捕まっていいか分からずとりあえず身体を軽く捻り秀吉さんにしがみつく。
「そんなに怖い?」
「当たり前じゃないですか!初めて乗るんですよ!」
「大丈夫、絶対俺が守るから。落としたりなんかしないよ。」
そう思うなら、速度を緩めて欲しい。
暫く馬に揺られているとやがて大きな城が見えてきた。…金ピカだ。
「あれが俺たちの城だよ。」
「派手ですね…。」
「地味な城より派手な方が目立っていいでしょ?」
その理論はちょっとわからない。城に着くと、恐らく女中と思われる人たちや兵達が出迎えに来ていた。…私本当に戦国時代に来てしまったのかな。先に降りた秀吉さんに手を差し出され、有難く拝借し馬から降りる。お尻がじんじんする…乗馬って大変なんだな。
「空き部屋があるから案内するよ。付いてきて。…っと、その前に手、洗う?」
「あっ、すみません…そうしていただけると嬉しいです。」
「じゃあ先にこっちね、付いてきて!」
誘われるがまま手洗い場へ向かい乾燥し始めていた血液を洗い流す。…うぅ、まだ鉄サビみたいな匂いがする気がする。後、お城広過ぎ。絶対迷子になるなぁ…。
なるべく道を忘れない様に辺りを見渡しながら秀吉さんの後ろを歩くと、空き部屋とやらに辿り着いた。普通に広いし、綺麗だ。