第5章 計画
「そう、ですね…。わかりました。でも、ひとつだけ条件いいですか?」
「…この状況で条件の提案をして来るとはいい度胸ですね。」
「私はもっと三成さんと仲良くなりたいんです。あなたの事を知りたいんです。だから、仕事を見せて貰ったりたまに敬語無しで話すのを許して下さい。」
思っている事を隠さず述べると三成さんは俄に目を見開かせた。そして数秒の間をおき、ふと口元を緩める。わ、笑った!官兵衛さんもそうだけれど、三成さんが笑う所はもっと珍しい。
「…変わった人ですね。好きにして下さい。」
「やった!ありがとうございます!」
「大きな声は出さない。」
「あ……。」
ハッとして自分の口を塞ぐ。そしてまた少しの間を置いて、三成さんが小さく唇を開いた。喉元に触れる吐息が、こそばゆい。
「…いい、ですか…?」
「…はい。」
いざ、噛まれるとなると緊張する。私は三成さんの背中へ両腕を回しぎゅっと服を握った。
「それでは…失礼します。」
躊躇いがちに、私の首筋へ細い牙が突き立てられる。首筋から、全身へ熱いような痺れるような不思議な感覚が広がっていく。
「……ん、はぁっ…。」
「みつ、なりさん……。」
「…もう少しだけ、我慢して下さい。」
痛みと痺れで何が何だか分からなくなりそうだ。溶けてしまいそう。縋るように抱き着く腕の力を込めると、ゴクリと嚥下する音が響き漸く三成さんの唇が離れる。
「確かにこの血は……秀吉様が固執するのも頷ける…。」
小さく零したその言葉の真意は分からない。とりあえず美味しいって事なのかな。ぼうっとした頭で考えていると、突然三成さんから強い光が放たれる。反射的に目を閉じ、開いた頃には彼の髪は薄い紫がかった色に代わり、瞳の色は鮮やかな赤色になっていた。ちゃんと【覚醒】したらしい。
「す、すごい力だ…これは予想以上です。これが、覚醒…!」
私には外観的な変化しか分からないが、その人にはパワーアップした感覚がしっかりあるらしい。三成さんは自信に溢れた眼差しで盗賊の隠れ家を見据え、刀を抜き放った。
「気をつけて下さいね…!」
「ありがとうございます。そこで待っていて下さい。すぐに終わらせて来ますから。」