第5章 計画
「…わざわざ探してくれたんですか?」
「ち…違います!いえ、違うと言えばまた語弊があるかもしれませんが…兎に角、あなたがまた人狼にでも出会い、連れ去られでもしたら困りますから。」
「心配して下さってありがとうございます!」
「べ、別にあなたに感謝されても嬉しくありません。」
言葉とは裏腹に三成さんは顔を隠すように眼鏡をくいっ、と持ち上げた。そしてすぐに踵を返す彼に私も後を追う。
「無駄口を叩く暇があったら、足を動かして下さい。これ以上、予定を遅らせるわけにはいきませんから。」
「はい!」
それから三成さんと一緒に風土記の本や簡易地図の本など必要なものを各書店で揃えていく。勿論私は荷物持ちとして今度こそ役に立ちたくて、大量の本を抱えた。重いけれど筋トレと思えばどうということは無い。
「ここでは郷土史を購入するんですよね?」
「そうです。これで最後の買い物になりますね。…あ、ご主人、お久しぶりです。こちらの本を1冊お願い出来ますか?」
「三成様、ご無沙汰しております。この本ですね、ありがとうございます。」
購入されたであろう本が、私の手の中で積み重なる本のタワーへまた1つ追加される。どうやら三成さんはここの本屋さんの店主と顔見知りのようだった。話す時の声が少しだけいつもより柔らかい。
「ところで…珍しいですね。女性を連れて来られるなんて。その方はもしかして三成様の…。」
「変な勘ぐりは辞めてください…彼女は秀吉様の護衛役です。今は、私の手伝いをしてもらっています。」
「なるほど、そうでしたか。失礼致しました。」
「と申します。また三成さんのおつかいで来るかもしれないので以後よろしくお願い致します。」
「いやいや、いつも三成様にはお世話になっております。今後ともご贔屓に。」
顔を本の横から覗かせて挨拶をすればお爺さんは優しく笑ってくれた。とてもいい人そう。
「さて、そろそろ帰りますよ。」
「はーい。」
店主に頭を下げて店を出ようとしたその時、入口で立ち止まる男と目が合った。今にも泣きそうな表情をしている。
「三成様…!?三成様ですよね!?どうか、どうか私たちをお助け下さいませ!」
駆け寄ってきた彼に必死な形相で三成さんは着物の袖口を掴まれ、店内全体に緊張が走る。