第4章 日常
「そうだね。私が外を歩いている途中、知らない人の声が頭の中に響いてきたの。貴方の力を貸してほしい、って。その声を聞いた途端目眩がして倒れたんだけれど…気がついた時には神牙に居た。この声は多分、姫神子様のものなんだと思う。それで今は、姫神子様の事を知っている子に、一緒に探して欲しいって頼まれてるの。元の世界に帰る方法も姫神子様が知っているかもしれない。」
そう言うと、一瞬にして秀吉さんの表情が曇った。言わんとしていることは分かる。分かるけど。
「…姫神子が見つかったら、あんたはその元の世界に帰っちゃうわけだ。」
「うん、帰らないと。お父さんとお母さんも居るし、兄に勝つって目標も果たされてないから。」
「その兄って、刀を扱ってるの?」
「私の世界では本物の刀で斬り合いはしないの。竹で作った刀で勝負をする。決められた規則があって、それに従ってね。神牙みたいに乱世では無いから。」
「そっか…。ならこの世界で暮らすよりよっぽど平和な人生を送れるって事だよねぇ。」
そう言ったきり秀吉さんは黙り込んでしまった。ピンクがかった綺麗な瞳が空を仰ぐ。何を考えているかその表情から読み取る事はできない。寂しい、って思ってくれてるのかな。
掛ける言葉が見つからず、視線をさまよわせていると秀吉さんは立ち上がり私の目の前で仁王立ちになった。
「秀吉さ…。」
「俺はあんたを元の世界に帰したくはない。」
「っ…!!」
「けど!姫神子を探しているのは俺達も同じだ。」
「秀吉さんも?」
「別に俺だけじゃないよ。他の軍の連中も探してる。この乱世を終わらせるためにと同じ力を持つ姫神子の血が必要だからね。」
「そう、なんだ…。」
他の軍も探しているのに見つかってないって事は、姫神子様を探すのは相当大変な事なんだろうな。そう思うと急に不安な気持ちが募る。思っていたことが表情に出てしまったのか、秀吉さんの大きな掌が私の頭を優しく撫でる。
「……姫神子探しには協力するよ。」
「いいの!?」
「まぁね。寂しい、っていうのはもちろんあるけど、俺たちは仲間じゃん?困ってるなら助けたい。」
「仲間…。」
「だけど、姫神子を見つけるまでにあんたから、帰りたくないって言わせるよ。」
「…はい?」