第4章 日常
「この後もう一度軍議を開くから余り長い時間は取れないよ。」
「うん、忙しいのにありがとう。」
再び庭へ来ると秀吉さんに木刀を渡されしっかり柄を握る。彼も同じ様に木刀を握った。距離を取ったまま秀吉さんは動かない。様子を見ているらしい。それなら私から…!
砂利を蹴り一気に秀吉さんとの距離を詰める。
「はっ…!」
「おっと…!甘いよ!」
腹を突こうと押し出した刀は寸前で避けられる。次いで振り下ろされた刀を受けるため直ぐに私も木刀を下から振り上げた。木刀同士の擦れる音が響く。流石男というだけあって力は強い。けれど、私だって伊達に毎日兄と勝負をしていない。これくらい、受けられる…!
「おお、秀吉の太刀受け止めたぞ!すげぇ!!」
「随分力は有るみたいですね…。」
「ちゃん、頑張れ〜!」
刀同士の接触を解けば直ぐに次の攻撃が来るだろう。が、このままでは押し負ける。交わる刀を去なし今度は思いっきり刀を振り下ろす。それを秀吉さんは難無く受け止める。1度距離を取り懐へ潜り込み打ち込む。そんな攻防が続いた。
「…確かに、女の子とは思えないほど良く鍛えられてるね…!でも、まだまだ俺の首は取れないよ!」
意地悪く笑った秀吉さん。振り下ろされる刀を受け止めようと受け身を取ったが、上回る力に木刀は弾かれ地に落ちた。刀の切っ先が喉元に向けられる。
「勝負あり、ってね!」
「…悔しい!」
「はすばしっこいんだからもっと動き回って沢山打ち込みなよ。それと、受け身を取るより避ける事に専念する方が良い。力ではどう頑張っても俺には勝てないからね。それにしても…。」
顎に手を添え小首を傾げる秀吉さん。私は怪訝そうな顔で見るとさぞ真剣な面持ちで口を開く。
「女の子を負かせるのって、凄い背徳感あるね…。」
「そのまま変な性癖に目覚めるのは本当に辞めて下さい。」
「冗談だよ!さぁて、2戦目行きたいところだけど、軍議を行わないとならないからね。続きは明日。皆集まってるし、ここでやっちゃおうか。利家!」
「ん?おぉ、城下町で聞き込みして来たぜ!」
私は落とした木刀を拾い上げ、縁側へ座る皆の元に歩み寄る。どうやら朝言っていた賊の話のようだ。
「聞くところによると、豊臣領の南部で多発してるらしい。拠点もその辺になるな。」