第4章 日常
キスマーク1つで守れると思ったら大間違いだと思う。ただいたずらに人の目を引くだけだ。どうやらこの男は私が想像しているよりずっと強引で人を振り回すらしい。この件に関しては何を言っても無駄そうだ…。
私はがくりと肩を落とし半兵衛くんに向き直る。
「もういい…。二度とこんなの付けないで下さいね。行こう、半兵衛くん。」
「待って、半兵衛くんって何、敬語は!?」
部屋から1歩出る直前で秀吉さんに手を掴まれた。振り返り説明するよりも先に半兵衛くんが身を乗り出し楽しそうに笑う。
「秀吉様には内緒だよ〜。ね、ちゃん?」
「え?あ、うん!」
「なーんでそんな仲良くなってるの…!」
ぶすっと頬をむくれさせる秀吉さん。この表情はちょっとだけ新鮮だった。いつもヘラヘラ笑ってるから。半兵衛くんもそれが面白いようで肩を揺らし笑いを堪えている。
「今からちゃん、馬術を習いに官兵衛の所に行くんだよね〜。秀吉様も来ますか?」
「…行く、おいでとうきち!」
一瞬迷う様に視線を逡巡させたが秀吉さんは頷いた。そのまま立ち上がるととうきちくんを肩に乗せ一緒に部屋を後にする。私としては、秀吉さん抜きで平和にやりたかったのだけれど…。なんか変に口出されそうだし。
「あ、そうだ。流石にその着物じゃ動きにくいよね?僕の着物着てみる?」
「えっ、いいの?」
「うん、女の子の着物よりはちょっとくらい動きやすいと思うよ!」
「今の新しい着物は針子に頼んでるんだ。確かに馬術や刀の訓練をするなら、男物に寄せた方がいいね。」
「それじゃあ…お願いします!」
半兵衛くんの服、ヒラヒラしててゴスロリ…?ロリータ…?っぽくて若干着るのが恥ずかしいけれど確かに普通の着物よりは動きやすそうだ。ズボンだし。
私たちは庭に向かう前に半兵衛くんの部屋に寄った。そこで着物を借りたけれど…。流石に丈が長い。とりあえずズボンはショートパンツ履こうかな。半兵衛くんの部屋にあった鏡を見ながら思案していると廊下から声が掛けられる。
「ちゃん、着替え終わった?」
「うん!」
「入るよー……うん、いいね。その着物も似合ってる!流石俺のお嫁さん。」