第1章 ゆめうつつ
「おらぁ!」
「ふんっ!」
何処と無く遠くから聞こえる男達の声。金属同士の擦れる不快な高音に鼻につく草と土の匂い。私の意識はゆっくりと浮上し始め身体を起こす。辺りを見渡すとここは草原だった。私はその近くの草むらの陰で目を覚ましたらしい。余りにも見覚えの無い景色に思わず目を見張る。そもそも私はコンビニのすぐ目の前で倒れたはずなんだけど。後私のアイスどこいった。
「これは夢…?」
片手を頬へ運びぎゅっとつねってみる。痛い。…夢では無いらしい。とりあえず起き上がろうと地についた手に力を込めた。すると泥水に手を触れた時のようにぬるりと手が滑る。その感触に誘われるまま顔を手元に向けて私は思わず言葉を失った。
見たことの無い程真っ赤な地面。その横に転がっているのは…人だ。血液を失った肌は異常な位白く切り裂かれた喉からは未だに血がとろりと溢れている。
「っ…!」
吐きそうになった。こんな傷鋭利な刃物でない限り出来るはずがない。という事はここは殺人現場?私も拉致された…?兎に角ここから離れないと、私も死ぬかもしれない。変な人間が周りにいないか草の隙間から顔を覗かれる。そこから見える光景に、私の頭はパンク寸前になった。
何故男同士で刀や槍を奮ってるの?あれは本物?私は戦国時代にでも来てしまった…?これが戦だとしたらこんな場所に居る私は相当の不審者だろう。顔は出さない方が賢明な気がする。…けど、この死体の隣に居るのも嫌だな…。
そんな事を考えると不意にまた別の声が聞こえてきた。
「おーい!利家!まだ生きてるー?」
「お待ち下さい!相手はあの勝家さんなんですから、近寄るのは危険です!」
馬が駆ける音と共に現れた男達。ふと茶色の髪の男がこちらを見た。…目が合った?それに今利家と勝家って言った?…利家って前田利家だよね。勝家は柴田勝家…?じゃああれは織田軍と豊臣軍の戦?
「なんだ、てめえらだけで援軍のつもりか?いいぜ、3人まとめてかかって来い…!」
赤い髪の男が挑発的に笑う。なんかV系みたいな恰好な上に防具少なくない…?私の想像する戦国時代はもっとこう…甲冑だらけで…厳ついイメージだったんだけど。
「やる気満々ですね…。けど、残念!うしろを見てくださいよ。」
「…!チッ、撤退の狼煙か。仕方ねえ、殺すのは次の機会だ。覚悟しておけ。お前ら!全員撤退だ!!」