第1章 ゆめうつつ
ジリジリと暑い蝉の鳴き声が耳を劈く夏の日。兄との勝負を終えた私は不貞腐れた気持ちのままコンビニへと向かっていた。
「もう10数年も手合わせしてるのになんで勝てないかなぁ…。毎日ちゃんと稽古もしているのに。」
兄の剣道の強さは異常だった。こいつは戦国時代の武将かって位動きが機敏で判断も的確。1度も勝てた事が無いのが悔しくて悔しくて堪らない。コンビニの中はエアコンが効いていてひんやりと身体を冷やした。それでも外気の暑さが忘れられずついふらりとアイスコーナーに向かいバニラアイスのソフトクリームを手に取った。そのまま会計を済ませ外に出るとクリーム部分を覆うプラスチック製の蓋を外し舌先でそっと舐めとる。冷たくて甘くて美味しい。
「帰ったらもう少し自主練してから寝ようかな。」
明日こそ、兄に勝つために。
ぺたぺたとビーチサンダルの音を立てながら帰路につく。そんな時だった。
ーーあなたの力を貸して欲しい。
「…え?」
何処からとも無く、聞こえる…というよりは脳内に直接響く知らない声。その瞬間、目の前は真っ白な光に包まれ私の意識は遠のいた。