第3章 厄魔
「それじゃあ、まずはみんなに重大発表!この度彼女の熱意に負けので、俺の護衛役にすることにしました!」
「ほ、本気ですか!?秀吉様!」
「だって、強情なんだもん。結婚の話は保留にされちゃったし、軍に迎えるなら何かしらの役職は必要だろうしね。」
「ははっ、秀吉を負かすなんてすげぇな、お前!」
「僕も君なら大歓迎〜!」
「ふっ、面白くなって来たな。」
「…はぁ。秀吉様の決定ならば、従いましょう。」
それぞれの言葉を聞きながら、認められたという実感がじわじわと広がっていく。逃げるなんて真似しなければ良かった。いや、これからそんな事はしない。私は出ていった時と同じように深々と頭を下げた。
「これからよろしくお願いします!」
「こちらこそ!それじゃ、帰ろうか。」
相変わらず秀吉さんの馬に乗せてもらいお城に戻った私は自室に戻りぼんやりとしていた。これから私はこの城で誰かに稽古をつけてもらって…何かあれば軍のみんなに血をあげて……なんか献血みたいだな。
それ以外に出来ることってあるだろうか。家事とか?料理は得意だったけれどこの世界とじゃあるものも違うよなぁ…。
「入っていい?」
「あ、はい。どうぞ。」
部屋に訪れて来たのは秀吉さんだった。何となく改まって座り直すと彼は真正面に座る。
「稽古に関してだけど、馬術に関しては官兵衛、刀に関しては俺が見ることにするよ。ただし木刀ね。」
「わかりました!」
「それと………あれ?待って。あんたのその鎖骨…。」
秀吉さんの視線が私の首筋で止まった。そういえば、厄魔に会う前伊達っぽい人に噛まれたことを伝えるのを忘れていたな。今からでも報告しようと唇を開いた刹那、私の体は床へ組み敷かれた。
「な、何?秀吉さん…?」
「誰に噛まれたの。」
見下ろす秀吉さんの瞳が、少し怒っているように見えて怖かった。私は躊躇いがちに言葉を紡ぐ。
「……厄魔が出る前、犬みたいな耳をした人に出会って…。」
「人狼か…。」
苦々しそうに顔を歪めた秀吉さん。かと思えば両腕が背中へ回され覆い被さるように思いっきり抱き締められた。訳が分からず私はただ彼の背中をぽんぽんと擦る。