第3章 厄魔
「っ…いきなり噛み付いてくる男について行く分けないでしょ!触らないで!!」
握られた手を振り払うと男はむっと唇を歪めた。怒りたいのはこっちの方だ。飄々とした男を睨むと、彼は懐に手を入れる。そこから取り出されたものに目を見張った。あ、麻縄…!
「……同意が無いのなら無理矢理にでも連れ帰…。」
言葉が止まったかと思うと男の垂れ耳がぴくっと揺れた。顔を私から上げるなり立ち上がって忌々しそうに舌を打つ。何、今度は何なの…!?
「…機を逃したな。忘れるな、必ずお前を豊臣秀吉から攫う。」
それだけ言い残して走っていってしまった。一体なんだったんだ…。多分、眼帯を付けていたから私の知っている武将に置き換えると伊達政宗にあたるのだろう。けど犬耳付いてたな。…血も、吸っていたし人外なのは間違いない。
立ち上がり着物に付いた土を払う。辺りはすっかり暗くなってしまっていた。どうしよう、結局無計画のままだ。そんな事を思っていると辺り一面赤い光がぼんやり浮かび始めた。
「何…?」
よく見ると、規則的に2つずつ並んでいる。それが、沢山。これはまさか……!
「グオォォ!!」
さっきの化け物の群れ!?いつの間にこんな増えてたの…!?慌てて刀を握るが、辺りが暗い上に数も一体、二体なんてものじゃない。今度こそ、死ぬ…?
ヒヤリと背筋が凍った気がした。刀を握る手が震える。そんな時だった。
「見つけた!!」
上から何か降ってきた。それと同時に聞こえてくる聞き慣れつつある声。重なって化け物の悲鳴も聞こえる。
「秀吉さん!」
「全く、よりによってなんでこんな所に来ちゃったの?今片付けるから、大人しくしててね!」
そう言って秀吉さんは刀を奮い、化け物相手に戦い始めた。私を庇いながら、辺りの見えにくい暗闇で。
けれど数は一向に減ること無く寧ろ増えてる様にすら感じる。
「わ、私も戦います!」
「駄目だ!厄魔は凶暴なんだ、人間のあんたが簡単に倒せる相手じゃないよ!」
「でも…ッ!」
「大丈夫、約束したでしょ?は俺が守るって。」
振り返って笑顔を見せる秀吉さん。
その姿を見て、考えるよりも先に唇が動いた。