第3章 厄魔
頑なに曲げない秀吉さんの様子に私もいよいよ腹が立ってきた。それなら、私にも考えがある。
「…もういい、短い間お世話になりました!」
「え、ちょ、ちょっと!どこ行くの!」
他の軍に行ってやる!!この人みたいに嫁になれとか、訳分からない事を言わない軍に行く!私の血が希少価値なら多分上手く口を回らせればいける。
私は深々と頭を下げてその場から全速力で走り出した。捕まらないように。
…それからどれだけ走ったのだろう。気がつけば城下町まで来ており、思い立ったように見渡してみると町はとても栄えていた。通りゆく人達みんな活気がある。…確かにこんな町を作り上げてきた秀吉さんは凄い人だというのも、良くわかる。
「これからどうしようかなぁ…。」
織田軍は怖くて行けたものじゃないし、そもそも他にどんな軍が有るかも分からない。というか神牙って日本地図と一緒なのだろうか。
下を向きながら考えていると、いつの間にか町の外に出ていた。何も無い草原。元の世界ではあまり見る光景では無いからちょっとだけ新鮮だな。そのまましばらく歩いていれば何故か刀が落ちているのを見つけた。躊躇いがちに拾い鞘から引いてみると刀身は血の汚れも無く綺麗だ。初めて持った時はどこか重く感じたけれど今はそんな事も思わない。少しだけ自分の中でこの世界を生きて行く覚悟が出来てきたのかな…。
刀を構え一振りしてみる。空を切る音が耳に心地良い。これは持っておこう。
「はー…馬は欲しかった。ここからどれだけ歩けば他の領地に入るか全然分からない…。」
どうしたもんか。私はその場に1度腰を下ろし仰向けに寝転んだ。空は青々としていて気持ちのいい風が吹く。訪れる眠気に瞼を下ろす。…今頃豊臣軍はどうなってるだろう。探してるかな。
眠るか眠らないか、ふわふわと意識が揺蕩う中、不意に耳を劈くような咆哮が響いた。
「グオォォ!」
「何!?」
思わず身体が飛び起きる。辺りは既に夕暮れになっていた。しまった、私まだ豊臣の領地からすら出られてないんじゃ…。いや、そんな心配をしている場合じゃない。慌てて立ち上がり周りを見渡すと視界に飛び込んで来る光景に愕然とした。
「ば、化け物…!!」
明らかに人間とは違う何か。人型のそれは獣のように唸っている。ぞわりと鳥肌が立った。武将の次は化け物?こんな生物が居るなんて聞いてない。