第2章 始まり
気が付くと、織田の軍勢が私たちを取り囲んでいた。なんとなく、直感する。この目の前で対峙している男こそ相手の総大将、織田信長なのだと。
「久しぶりだな、猿。」
「……織田信長。」
「足でまといを連れて、よくここまでやったと、まずは褒めてやるべきか。」
「はは、ありがとうございます。あなたにお褒め頂けるなんて、光栄の極みですね。」
2人とも目が笑ってない。今にも乱戦になりそうな気配に手をぎゅっと握り込むとそれに気付いたのか秀吉さんが更に背中へ庇ってくれた。
「相変わらず調子のいい事だ。……その女には、お前が連れ回すに値する理由があるのか?」
「そりゃあ…これだけ可愛いんですよ?手元に置いておきたくなるのは当然じゃないですか。」
「ほう…そのような戯言で誤魔化す程度には、利用価値があると判断したという事か。」
「…いやぁ。本当、そのご慧眼には恐れ入りますよ。」
「ふん…毛程も思っていないくせに、よく口が回るものだな。」
織田信長と秀吉さんは矢張り顔見知りなのかな。私が知っている歴史通りなのだろうか…判断しづらい。兎に角織田信長が強い、って事くらいは私にも分かった。
「うーん…流石にまずいかもね。」
「え?」
「ただの兵だけならなんとかなると思ってたけど…織田軍本隊の強さは神牙でも屈指だから…。仮にさっきの手を使ったとしても切り抜けられるかどうか…。」
「…さっきの手、とは?」
「あぁ、いや。こっちの話。」
「別れの挨拶は済ませたな。ーーー殺れ。」
「「はっ!!」」
「……。絶対に俺のそばから離れるなよ。」
「秀吉さん…。」
「狙うは豊臣の首!かかれぇ!!」
今にも乱戦になりそうなその時、後方から聞き覚えの有る声が聞こえてきた。
「させません!」
「ぐあっ!!」
「秀吉達には指一本触れさせねぇぞ!」
颯爽と現れたのは、三成さんと利家さんだった。2人とも怪我ひとつなくピンピンしている。取り囲んでいた織田軍の兵達が血飛沫を上げて倒れた。来る前は、血を見るのが怖くて怖くて堪らなかったけれど今はそれどころじゃない。
「三成、利家!お前達、来てくれたのか!」
「ははっ、そんなの当たり前だろ!ま、見つけるのにちょいと手間取ったけどな!」