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夢現【戦刻ナイトブラッド】

第2章 始まり


耳元で囁くように聞こえる声がこの戦場に似合わない程に優しく、落ち着いていて膨らむ不安がすっと消えていくのを感じた。なんとなく、安心する。兄みたい。無言のまま小さく首を縦に振ると、秀吉さんは唇に添えた手で軽く頭を撫でてくれた。
それからどれくらいだっただろう。気が付けば織田軍の兵達は遠ざかったようで声も聞こえなくなった。それを秀吉さんも感じ取ったようでゆっくり身体が離れる。

「ごめん、怖かったよね。でも、もう安心だよ。」

「あ…ありがとうございます。」

まだバクバクと響く心臓を落ち着かせようと左胸に手を置いて深く深呼吸してみる。追われる恐怖って、すごい。

「追っ手も居なくなったし、そろそろみんなの所へ帰ろうか。三成たちも心配してるだろうし……痛っ…。」

小さな悲鳴と共に腕を庇う秀吉さん。さっき血が滲んでた所だ。激しく走り回ったし、敵も斬っていたから傷口が開いたのかもしれない。彼の手を取り傷口を見てみると、案の定だった。

「いやぁ、さっきまで緊張してて、俺も忘れてたんだけど。斬ったり走ったりしてれば、そりゃ怪我も酷くなるよね。」

「笑ってる場合じゃないですから。」

私はポケットからハンカチを引っぱり出し秀吉さんの腕に巻き付ける。泥まみれにはなって無いし多分大丈夫…だと思う。

「とりあえずこれで止血して下さい。」

「止血って…人間じゃあるまいし、このくらいの怪我、すぐ治るよ。」

「…私は吸血鬼が良くわからないからどの位で傷が治るかなんて知りませんけど、さっき痛がってたじゃないですか。いいから大人しくして下さい。」

傷口へハンカチを巻きキツめに縛る。…既にじんわりと血が染みているのが見てて痛々しい。けれど私に出来ることなんてこれしかないから。

「ははっ、痛いのはあんまり好きじゃないけど、こうしてに手当してもらえるなら、むしろ怪我して良かったかもね?」

「馬鹿なこと言わないでくださいよ。見てるこっちが痛いです。」

治療を終え立ち上がると、秀吉さんと目が合った。いや、目は合ってないかもしれない。喉を見てる…?

「…ねぇ、その首筋の傷、どうしたの?」

「え?あ…本当だ。多分走ってる時無我夢中だったのでその時切ったのかもしれません。」
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