第2章 始まり
普段構えるように、刀を構える。大丈夫、怖くない。毎日稽古してきたから。
深く深呼吸して気持ちを落ち着けた。そして一歩踏み出そうとしたその瞬間…ーー秀吉さんに刀を取り上げられる。
「…ふふっ、ははは!あはははは!そんなに手震えてるのに。あんたって見かけによらず気が強いんだね!いやぁ、気に入っちゃったよ。」
「え…。」
「女のあんたにそんなところ見せられたら、俺も負けていられないなぁ!でも、のその綺麗な手に血のついた刀は似合わないし、掴むなら俺の手にしといて!」
取り上げた刀を適当に捨てると、秀吉さんに手を掴まれる。呆気に取られた顔で彼を見上げれば、秀吉さんは織田軍に対し挑発的に笑ってみせた。
「この豊臣秀吉が、そう簡単に捕まると思わないで欲しいな!」
「ぐあぁ!!」
秀吉さんがまた1人、織田軍の人を斬り伏せる。
「よし、今だ。さぁ、2人で逃げよう!」
「ええ!?ちょ…うわ!!」
退路を確保するや否や走り出した秀吉さんに手を引かれ慌てて私も走り出す。この人、無茶苦茶だ…!それに怪我もしてるのに!
けれど文句を言っている暇もなかった。当たり前だが織田軍が追ってきているから逃げることで手一杯になってしまった。
完全にけもの道の森をただ引かれるがままに走る。無造作に伸びる草木が肌を掠めて若干痛い。ある程度走った所で織田軍の追っては見えなくなり、私達も足を緩めた。
「ふぅ…。仲間たちからはだいぶ離されちゃったけど、ちょっとは織田軍の追っ手をまけたかな?念の為、しばらくこっちの茂みに隠れて様子を見ようか。」
「はい…。」
「あんまり息切らして無いね。運動得意?」
「まぁ、ある程度は。」
2人で茂みに身を潜め、こそこそと話す。必然的に距離も縮まりなんとなく居心地が悪くて秀吉さんから顔を背けた。
「ほら、もっとこっちに来て。敵に見つかったら、大変でしょ?」
「ち、近い…!」
「しーっ。」
口元に人差し指を添えられ思わず押し黙る。すると徐に隻手を背中に回され身体を引き寄せられる事で更に密着が深まった。
「秀吉さ…っ!」
「まだ近くに居るはずだ!手分けして探せ!」
聞こえてきた怒号に唇を噤んだ。喋ったらバレる…!まだ死にたくない…!!
「大丈夫、見つからないよ。」