第2章 始まり
「わっ…!」
「はっーー!!」
「ぐあっ!!」
その瞬間、刀が空を切る音が聞こえたかと思えば秀吉さんの刀が私の後ろで振り下ろされた。背後から聞こえる悲鳴に思わず耳を塞ぎたくなる。どさりと人が倒れ込む音と、足元に広がる血がやけに生々しい。
「…少し話し過ぎたかな。」
「…!秀吉さんも怪我してるじゃないですか!」
刀を持つ腕からじんわりと血が広がっていた。私を庇おうとして、刀が掠ったらしい。何か止血できるもの…!そう思ってポケットを漁る間に辺りはあっという間に囲まれてしまっていた。服装的に、織田軍なのだろう。
「あぁ、やっぱり。本陣の背後に回り込まれちゃってたみたいだね。」
どっと本陣に敵が流れ込み、辺りは織田軍の兵と豊臣軍の兵で混戦状態になってしまった。まさか本陣でこんな事になるなんて…。
「秀吉様をお守りーーぐああっ!!」
前線に兵を注いだせいか本陣に残る兵が織田軍より数が少ないようで、戦況は圧倒的不利。敵がどんどん私達の周りに集まってくる。
「あの…私に出来ることは有りますか?」
「えっ?」
「私のせいで秀吉さんに怪我をさせてしまったし…。何か出来ることが有れば言って下さい。」
「出来ること、ね…ひとつだけあるよ。」
「任せて下さい!」
「この刀を持って一緒に戦おう。」
織田軍の落とした刀を拾い、それを手渡される。…初めて持った本物の刀は竹刀よりずっと重みがあった。多分これは気持ち的なものなのだろう。人を斬る覚悟があるか、どうか。
「なーんてね。今のはじょうだーー」
「わかりました。」
「えっ。」
斬る覚悟なんて勿論ある訳ない。だって私は戦国時代の人間ではない。もっと生易しい平和な世界で生きて来た。私の剣技がこの乱世でどの程度通じるかも分からない、が…興味が有るのも確かだ。自分の培って来たものが、通用するのか。本当に斬らずとも…峰打ち位なら…。
「人を斬る度胸は有りません。けど、やれる事はやります!」