第13章 自覚
見せて貰った通り、身をかがめて大根の茎の根元を掴む。脚に力を入れ、思いっ切り引っ張ってみるものの大根はビクともしない。嘘でしょ、力にはそれなりに自信があるのに!
「うーーーん…!!」
「ははっ、これは結構太かったみたいだね。俺も手伝うよ!」
「え、幸村く…」
「せーのでいくよ!」
まるで後ろから抱き締められるかの様に、手が回される。もちろんその手は私と同じ様に大根の茎を掴んでいるわけなのだが、背に彼の暖かさが伝わる位近くて思わず焦ってしまう。しかし幸村くんはこの距離よりも収穫する事に意識が向いているようで、いつもの笑顔を浮かべた。慌てて私も下を向き直り、大根をギュッと掴む。
「いくよ、せーの…!」
「よいしょ……わぁ!!」
「うわっ!!」
2人で力を込めると大根は土を巻き上げ飛び出す様に勢い良く抜ける。その反動で私達の身体は仰け反り、そのままバランスを崩して尻もちをつく。ゆっくり振り向けば、幸村くんも驚いた様でお互いの顔を見詰め合いながらぱちくりと瞬きを繰り返した。
「──ふっ!」
「ふふ、あはははっ!ごめんね幸村くん!結局泥だらけになっちゃった!」
「あははっ!そうだね、2人とも土塗れだ!」
堰を切ったように笑い合う。さっき助けてもらったばっかりだったのに、こんな事になってしまったのがとても可笑しい。あぁ、厄魔や戦の事なんて忘れてしまいそうな位平和だ。なんて頭の片隅で考えていたら、幸村くんの指の背がそっと頬を拭う。
「顔にまで着いちゃったね…よし、取れた。目には入ってないかな?」
「大丈夫、幸村くんもじっとしてね。」
私も真似るように、汚れていない手の先で幸村くんの目元を擦った。そのまま一緒に立ち上がり着物についた汚れも払い落とす。…地面が少し湿っていたから、これは乾くまで残りそうだ。信之に見られたら怒られそう…!
「よし、収穫も出来たし、そろそろ城下に行こうか。その着物も、戻ったら直ぐに洗わないと。」
「うん、行こうか!」
引き抜いた大根に纏った土を払い、籠の中に入れると私たちは漸く城下へと向かい始めた。
「わぁ、朝から凄い活気があるね!」
「あぁ、ここは商人が集まっている町だからね。真田の領民や旅人だけじゃなく、俺たち真田軍のみんなも世話になってるんだ。」