第11章 籠城戦
そう言うと、信之さんの耳がピクリと揺れた。犬耳…狼耳だから動きが凄くわかりやすい。何に反応したのかは分からないけど…。
「いつの間に幸村と仲良くなったのか?」
「あっ…はい!先日敬語はやめて欲しいと改めて言われてしまったので普通にお話させて貰う事になりました。」
「ふむ…そうか……。」
信之さんは顎に手を添え顔を少しばかり俯けた。そのせいで表情は見えないけれど何か悩んでいる…のかな?もしかして大事な弟が私なんかと仲良くなるのが解せないとか…!?
「す、すみません!信之さんが不快でしたら辞めます!」
「え?」
「私のような得体の知れない女が総大将である幸村さんに馴れ馴れしいなんて嫌ですよね…!?」
「え!?…ははっ、いや、そんな事思っていないよ!そうじゃなくて、羨ましいと思ったんだ。」
「う…羨ましい…?」
「君と仲良くなりたいと思っているのは幸村だけでは無い、という事だよ。」
そう言って柔らかく頬を緩めた信之さんに思わずドキリと心音が高まる。…この世界の人達は本当に顔がいいから、困るなぁ。
「…それでは…信之さんとも普通にお話させて貰っても良いでしょうか…?」
「当然だ、その方が俺も嬉しい。」
信之さんは元々私よりずっと大人っぽいから、タメ口で話すの緊張するのだけど…本人が良いって言うのなら、良いのかな。良いよね。
「えっと……信之…?」
くん、は何か違う気がする。そう思って、おずおずと顔を覗き込み呼び捨てで呼んでみたら信之さんは少しだけ目を見開いた。そして片手を口元へ添え顔を逸らされる。少しだけ顔が赤いような…それとも、この呼び方は駄目だったのかな。
「よ…呼び方は今までのままの方が良いよね!ごめんなさい!」
「あ…いや、少し予想外だったから驚いたというか…俺はそのままで構わないよ。」
「そう…?」
「あぁ。」
なんとも言えない奇妙な沈黙が流れる。なんだか照れ臭い。付き合いたてのカップルが初めてお互いの名前を呼び捨てたかのような初々しい空気が耐えられない。
私はパンと両手を叩き勢いよく立ち上がった。
「そうだ!必要な本、蔵から持って来るよ。」
「そ…そうだったな。それじゃあ、この本をお願いしよう。」
信之さんは一枚の紙にいくつか箇条書きで文字を書いてくれた。これなら私でも本を探し出せるだろう。