第11章 籠城戦
「なぁ、今日才蔵と川に魚取りに行くんだけど一緒に行かねえ?」
足の傷も塞がり普通に歩けるようになったある日、温かいお茶を持って信之さんの部屋へ向かっていると突然佐助さんに声をかけられた。
「川…ですか?涼しくていいですね!お昼までは信之さんのお手伝いする約束なのでその後なら是非行きたいです。」
「よっしゃー、決まりだな!オレも飯までは仕事が有るから、終わったら呼びに行くな!」
「はい!」
約束すると佐助さんは上機嫌のままどこかへ行ってしまった。川か…あまりいい思い出はないけど、きっと冷たくて気持ちいいだろうな。それに佐助さんも多分、私に気を使って誘ってくれたんだと思うし断るのは忍びない。
色々考えている内に、目的地へと到着した。襖越しに声をかけてみる。
「信之さん、入ってもいいですか?」
「あぁ、構わないよ。」
「失礼します。」
襖を開くと信之さんは既に机へ向かい政務に励んでいた。本当に真面目な人だと思う。三成さんみたい。
襖を閉めて彼へ近付き手元から少し離れた位置に湯呑みを置くと、信之さんは筆を滑らせる手を止めて顔を上げる。
「わざわざ持ってきてくれたのか?ありがとう。」
「いいえ、信之さんいつも政務をこなしていて大変そうですし私に出来ることなんて限られてますから。信之さんもたまにはしっかりおやすみして下さいね。」
「俺は幸村のように戦うよりも頭を使う方が得意だからね。適材適所、という奴だ。政務自体は苦じゃないんだよ。」
「そうなんですか?私はあまり得意じゃないので尊敬します。」
「そうか?結構得意に見えるけどな。」
「ふふ、そう見られるのは嬉しいですよ。何か必要な資料とか有りますか?神牙の文字は読めないですけど…紙に書いてもらえれば同じものを持ってきます…!」
「それじゃあ頼もうかな。…けど、どうしては文字が読めないんだ?異国の人間なのかい?」
「う……そ、それはですね…。」
鋭い質問にグッと言葉を飲んだ。返答に困り視線を逡巡させる。言おうとは思っている。けど、答えるのならほかの人たちも居る時がいいな。
「…答えられないのなら無理には聞かないよ。」
「いえ、幸村くんや皆がいる時に答えさせて貰いますね。」