第10章 雨
「凄くいい匂い!」
「うん、俺もちょっとだけ感じるよ。喜んでくれたみたいだし、買って良かった!」
安心した様に頬を緩めて笑う幸村さんにつられて私も自然と笑顔が浮かぶ。
「私もお金があったら幸村さんに何か贈り物したいんですけどね…。」
「そんな、俺が勝手にした事だから御礼なんて要らないよ。」
「でも、私幸村さんから色んなもの貰ってます。」
「え?そうだっけ…?」
「気絶してた時助けてくれたのは幸村さんと佐助さんでしたし、ここに来てからもずっと面倒を見てくれてるのも幸村さんですよ!もう沢山の優しさを与えられてます。」
私もお城で身を置くだけじゃなくて、何処かで働くべき…?甘味処とかなら働けそう。そしたら、秀吉さんにも髪飾りの御礼出来るしアリかも。でも貰った優しさは同じもので返したい。だから今は裁縫という形で返してるわけだけど。
特に考えも浮かばず唸りながら視線を逡巡させる。すると不意に残ったままになってる1本のお団子が目に入った。何気なく、竹串部分を摘み持ち上げる。
「…あーん。」
「…えっ、?」
「幸村さん、あーん!」
「あ…あーん。」
開かれた口へぐいっ、とお団子を押し込む。1粒分口の中へ収まった所で指を離すと彼はきょとんと目を丸めた。
「頂いた恩は恩でちゃんと返します。だからもう少し待ってて下さい。」
「…こういう事って、恋仲になった人とやるものだと思ってたよ…。」
そう言いながら咀嚼する幸村さん。言われてみれば確かにそうかもしれない。指摘されれば妙に羞恥心が募り、頬が熱くなった。
「すみません…。嫌でしたか?」
「違う、嫌じゃない!」
「わっ!ゆ…幸村さん?」
「あ…ごめん!大声出して。けど嫌じゃなくてさ、俺…総大将だし、女の子とこういう事する経験って今まで無かったから、どう反応すればいいか分からなかったんだ。」
みるみる言葉の先が小さくなっていくのと同時に顔を真っ赤にさせる幸村さん。耳まで垂れるその反応が可愛らしくてつい、彼の頭を両手で撫でてしまった。
「?」
「幸村さん、私の足が治ったらデート…逢引しましょう!」