第10章 雨
「え!?」
「女の子として役不足かもしれませんが!私もっと幸村さんとお話したり外で、一緒にご飯食べたりしたいです。」
「…俺も、もっとの傍に居たいと思ってるんだ。だから嬉しいよ!足が治ったら、一緒に城の外へ行こう!」
「はい、楽しみにしてますね!」
「その前に1つお願いがあるんだけど…。」
「どうしましたか?」
「敬語、俺にはやめて欲しい。君の普段の話し方が知りたいっていうか…。距離を感じて、寂しいんだ。」
「…うん、分かった。じゃあ、幸村くんって呼んでもいい?」
「勿論!」
嬉しそうに頷いた幸村くんは残っていた団子を口の中へ含み、良く噛んでから飲み下すと皿を持って立ち上がった。
「それじゃあ俺もそろそろ仕事に戻るよ。も疲れたら適度に休むんだぞ。」
「うん!また夜にね。」
「あぁ。」
小さく頷き彼は部屋から出て行ってしまった。再び訪れた静寂の中、雨音だけが耳に響く。私は机の前へ戻り、貰った練り香水を置いて縫いかけの布を手に取った。
「……雨、止まないな。」
秀吉さん達の方も今は雨かな…。利家、こんな土砂降りの中鍛錬とか言って山登ってなければ良いけど…。
秀吉さんは今どうしてるだろう。ちゃんと政務をサボらずやってるだろうか。官兵衛さんと半兵衛くんは…私の事、負い目に思って無ければいいけど…。2人ともとてもやさしい人だから。三成さんは、ちゃんと眠ってるかな。
「会いたいな……あ。」
この時、私の頭に浮かんだのは豊臣領の人達だけだった。少しずつ…少しずつ。頭の中から家族の存在が薄れていくのを感じる。会いたい、そう思っているはずなのに。この世界に長くいる程、出会いが多い程、帰るのが惜しくなってしまう。別れが来るのが、怖くなってしまう。
姫神子様。貴方を見つけた時はどうか、私にこの世界に留まるという選択肢を与えないで下さい。
そんな事を願いながら、私は着物の修繕を急いだ。