第10章 雨
「幸村さん?」
困った様に頭の後ろを掻く幸村さんに私は首をかしげた。何のことだろう、そう思って彼を見ていると徐に自分の懐へ手を伸ばし何かを取り出す。
「両手、出して。」
「…?はい!」
言われた通りに両手の掌を見せるように差し出すと、取り出したものをぽんと置かれた。可愛らしくラッピングをされたそれに私は更に首を傾げる。
「これは…?」
「練り香水だよ。城下へ買い物に行った時に見つけたんだ。その…君に似合うかな、って思って…さ。」
「えぇ!?う、嬉しいですけど…何で私に…?」
「にはここに来てから毎日のように縫い物をやってもらってるだろ?どうしても男が多い場所だから、そういう細かな作業が出来るやつは少ないし、かなり助かってるんだよ。そのお礼、って事で!」
「そんな、私は寧ろお世話になってるのに…。」
この世界におけるお洒落グッズは、高いのでは無いだろうか。そんなものを私なんかの為に買ってくれたなんて…。勿論心から嬉しい。けど、それと同じくらい申し訳なさが募る。見返りが欲しくてやってた訳じゃないし何より、恩があるのは私の方だ。戸惑った気持ちを隠せないまま幸村さんへと視線を送る。
「俺からのほんの気持ちだよ。君に受け取って欲しいんだ。」
「…ありがとうございます、幸村さん。大切に使いますね!」
はにかむ姿を見せられ何も言えなくなってしまった。…彼がそう言ってくれるなら、ありがたく使わせて貰おう。蓋を開けて練り香水に鼻を寄せると、仄かに桜の香りがした。強すぎず、ふんわりとした優しい匂いがする。練り香水ってどこにつければいいんだろ。手首とか…?
「あの…お恥ずかし事聞いてもいいですか?」
「ん?どうしたの?」
「練り香水ってどうやって使うんですかね…?」
そう言うと彼はぽかんと小さく口を開けた。私だって女子としてこんな事聞きたくなかった…!けど香水なんて、スプレーのやつしか使ったことが無いんだもん。変な所に塗って笑われる方が嫌だ。
「あははっ、練り香水は初めて?」
「はい…。」
「買う時に商人に聞いたんだけど、ちょっとだけ指先に掬って手首とか、耳の裏…後は項とかに塗るといいんだって。」
「なるほど、つけてみます!」
言われた通り指先へ少し取り、両耳の後ろと項へ塗ってみる。すると先程感じた桜の匂いが鼻腔を擽った。