第10章 雨
「幸村はまだ団子も食べ終えてないだろう?休憩も取り始めたばかりだろうし、ゆっくりしてから戻るといい。」
「え、いいの?兄ちゃん。」
「しっかり休まないとお前に身体を壊されても困るからな。」
「ありがとう。」
信之さんはそれだけ言うと少しだけ笑ってから立ち上がって襖へと向かい、続いて佐助さんや鎌ノ助さんも渋々立ち上がり部屋の外へと行ってしまった。辺りは一気にしんと静まり返る。
「幸村さんは信之さんに大切にされてるんですね。」
「え?うん、そうだと思う。俺ももちろんみんなの事が大切だよ!守りたいと思ってる。真田領の民も、君もね。」
「ふふ、ありがとう。そうだ、幸村さんのお茶も淹れて来ます!」
「待って、歩くのしんどいだろ?俺は大丈夫だか……うわっ!」
「きゃあっ!」
手を付いて立ち上がり、襖へ向かおうとしたら幸村さんにぐっと手を引かれた。足を少しだけ庇いながら歩いていた為かそれだけであっさりとバランスを崩し前から倒れる。思わずギュッと目を閉じたが、身体が倒れた感覚は有るのに痛みは無い。ゆっくり瞼を持ち上げると、私の目の前には幸村さんの顔。
「…傷、開いてない?平気?」
「あ……だ、大丈夫です!重いですよね、ごめんなさい…!」
「重くないよ、寧ろ軽すぎる位だ。」
どうやら私は幸村さんに倒れ込んでしまったらしい。その拍子に髪に挿していた簪も落ちてしまった。近過ぎる距離に驚き直ぐさま身体を起こし襟元を整える。彼もゆっくり身体を起こすと少しだけ眦を赤くさせて頬を掻いた。
「幸村さんこそ怪我しなかったですか?」
「俺はこのくらい大丈夫だよ。はまだ完治して無いんだから、無理はしない事!」
「うぅ…わかりました。」
良かれと思った事が空回り少しだけ肩を落とす。足の怪我さえ早く直ればなぁ…。唇を尖らせ包帯を摩る。すると落した簪を拾ってくれた幸村さんは私へそれを差出してくれた。
「この簪、似合ってるね。」
「ありがとうございます。これ、秀吉さんに買って頂いた大事な簪なんです。」
…今幸村さんの耳、ピクって動いた?髪を纏めて捻ってから受け取った簪を挿す。髪留めが無くても束ねられるから、本当に使い勝手が良い。それに、初めて貰った贈り物だから大切にしたかった。
「うーん、この流れであまり言いたくないんだけど…。」