第10章 雨
「…ねぇ、怪我が治ったら、豊臣領に帰るの?」
「え?」
「僕はここにいて欲しいんだけど。」
「こら、鎌ノ助。彼女を困らせる事を言うもんじゃないぞ。」
「だって幸村、の膝柔らかいんだよ?」
「それは……経験しているのはお前だけだ鎌ノ助。」
柔らかい…か…結構鍛錬で筋肉ついてると思ってたんだけど。もっと頑張ろう。
「豊臣には帰るつもりです。だけど、ここの人達にも命を救って貰ったし、面倒まで見てもらいました。だから治ってから少しだけでもみんなの為に何かしてから、帰りたいなって…。」
「君は個人的な理由で姫神子を探しているのだろう?目的は俺たちとも同じだ。それならばわざわざ豊臣軍に戻らなくとも、俺たちと行動しても目的は果たせる可能性は有るのでは無いのか?」
才蔵さんの言うことは、一理ある。正直姫神子様を見つけて、元の世界へと帰るという目標が達成出来るのならどこの軍に居ようが私には関係ない。けれど…。
「…秀吉さんは何も知らない、何も出来ない私を助けてくれた人なんです。あの人がたとえ私をただの切り札だと思っていたとしても、私をずっと守ってくれた秀吉さんを私も守りたいんです。だから帰らないと。」
そう言うと、幸村さんは少しだけ寂しそうに眉を下げた。同時に耳もしゅんと垂れる。どうしてそんな顔、するのだろう。まだ出会ってほんの数日しか経ってないのに。そんな悲しそうな顔をされるとどうするべきか分からなくなる。
「…に最初に出逢うのが、俺だったら良かったのにな。」
「ふふ、もしそうだとしたら私はずっとここでお世話になってたかもしれませんね。というか、私だって直ぐに帰るわけじゃないんですから!もっと幸村さん達のこと知りたいし、城下も行ってみたい!」
「城下の事ならこの俺に任せるといい。君を完璧にエスコートしてみせよう。」
「才蔵より俺の方が案内得意だ!」
「お前の連れて行く場所など雌ザルしか喜ばないぞ。」
「お、俺だって女の子が好きそうな場所くらい分かるんだからな!」
「ふん、どうせ甘味処だろ!」
「2人とも喧嘩をするな!もう充分休んだだろう。仕事に戻るぞ。」
「え、仕事は終わったんじゃ…?」
信之さんの一言に鎌ノ助さんをちらりと見ればサッと顔を背けられた。サボりだったんだね鎌ノ助さん…。