第29章 ???? 前編
ついてきてと案内された一室は以前扉に鍵がかかっていた部屋でありビジョップは「ここは」と続ける
「元々閉まっていた部屋でしょ?
扉に鍵がかかった部屋は貴方の記憶を思い出すための重要な人物が深く関わっているの
ここは私の部屋、だから私がいる」
『他にも鍵がかかっている部屋がありましたが…残りは確か3つ?』
ビジョップが私を椅子に座るよう指示してお茶の用意を始める
魔法で水を温めながら棚に瓶で保管していた茶葉と洒落たコーヒーカップを取り出した
「正確には4つ。残りの一つはこの城にはないの…彼はここの世界で生まれた人じゃないから」
沸騰したお湯を茶葉の入ったポットにいれて軽く混ぜるとコーヒーカップへと注ぐ
その色はこの世界ではあまり見ないであろう綺麗な飴色でとてもいい香りがした
私の前に紅茶の入ったカップを置き、自身のカップも手に持ちながらビジョップは対面で椅子に座る
「温かいうちにどうぞ」
『ありがとうございます』
湯気がたつ紅茶にふーふーと熱を冷まして一口飲む…とても美味しくて、どこか懐かしい
「この紅茶は貴方がいつも寝る前や疲れたときに飲んでいたものなの
…忘れちゃった?」
『…ごめんなさい。でも初めて飲んだ筈なのにすごく懐かしい気持ちを感じたんです
これが私の眠っている記憶、なのでしょうか?』
テーブルにカップを置き胸に手をおく
もどかしくて、少し寂しくて、ちりちりと苦しい…記憶にはなくてもいままで感じてきたことが心の中で反応しているのかもしれない
私はビジョップに視線を向けて先程の話を戻した
『ビジョップ、先程言った闇の王の話ですが…あれはどういうことなのですか?』
「…主」
『教えて欲しいのです…私のことを』
「…っ」
ビジョップは一度開きかけた口を閉じてうつむいた
ぎゅっと握られた拳は音がなるほど強く握られたビジョップの中で言うか言わないか葛藤しているのだと察する
「それは…言えない」