第3章 そらるさん
今にも消えそうな声で言うお兄ちゃんに「はぁー」と大きなため息をつき困ったような声でそらるさんは言った。
「まぁいいよ。一度や二度じゃないし。お前の尻ぬぐいくらいまぁ慣れてるほうだし」
うんうんと納得していくように続けたそらるさんだったが、その間、お兄ちゃんは小さく、何度かうなっていた。
そろそろ可哀そうになってきたな。
「あの…お茶です」
おずおずとそらるさんの前にお盆を差し出すと、湯飲みを受け取ってフワリと笑った。
「…ありがとう」
「い、いえ…」
何度見ても慣れない。
かっこいい。その一言に尽きる。
たしか妹さんがいると言っていた。こんなにかっこいいお兄ちゃん。いいなぁ。
「ちょっと!僕の妹をたぶらかさないでください!!」
ガバっと肩を丸め込まれ、その拍子にもう一つの湯飲みがお盆から落っこちた。
カーペットが盛大に濡れているのが目に入る。
「っ!…お兄ちゃん……」
「……は、はい…」
「片づけて!!!!」
「はい!!!!!」
涙目で掃除をするお兄ちゃんをソファからそらるさんと眺めて、ふたりでクスクスと笑った。
「相変わらずだよな。ほんと」
そらるさんがお茶を飲みながら言う。
「まふは優香ちゃんに弱い」
口角をニヤリとさせ、私を見つめる。
「ははは…シスコンというやつです。きっと」
そう。お兄ちゃんのこの感じはずっとだ。
前からこんな風に、私のことを大事にしてくれている。
時には音楽よりも……。