第3章 そらるさん
「はーい」
と返事をして玄関を開けると、そこには見慣れた人が立っていた。
「あっ!そらるさん!」
私が返事をするよりも早く、後ろからお兄ちゃんが彼の名前を呼ぶ。
『そらるさん』と呼ばれたこの人は、お兄ちゃんと同じ歌い手。
そして「after the rain」というユニットの相方でもある。
「こんにちは優香ちゃん。あがってもいいかな?」
少し細めの瞳をニコリとさせる。
「もちろんです!どうぞ」
リビングに招き入れお茶を準備していると、ソファーに座っていたはずのお兄ちゃんが見えない。
見えるのは、座っているそらるさんの後頭部だけだ。
不思議に思って見つめていると、小さくお兄ちゃんの声がした。
「いや…ほんとに…反省してます……」
なにかしたのか…。”また”。
「本当さぁ…。お前からやろうって言ったくせにどういうことなの?」
そらるさんが深いため息をつきながら、頭をガシガシとかく。
「返す言葉もございません…」
どうやらお兄ちゃんはそらるさんの前に座っているようだ。
…床に。
「で?お前、配信予定だった時間に何してたの?」
「……ね…寝てました………」
「はぁ??……やめてよねほんとにさぁ。俺一人でやって、すごい気まずかったんだから」
「埋め合わせは必ず……」
ははぁ。お兄ちゃん配信時間に爆睡してたのか…。
それはお兄ちゃんが悪いな。