第4章 何か。
「お。お。おおおぉ!!」
カコンと音を立てて、アームからぬいぐるみが落ちる。
そしてそれはそのまま穴に一直線に吸い込まれていった。
「取れた!取れたよ優香ちゃん!」
「すごい!!ありがとう歌詞太郎さん!!」
さて。皆さんはきっと「え!?1回で取れたの?」って思っているでしょう。
実はこれ、約5,000円かかってます……。
クマのぬいぐるみ5,000円。
これはもはや定価では……。
でも嬉しい。
「はい!」
満面の笑みで私に大きなクマを差し出してくる。
「ふふっ。ありがとう!」
「……!……うん」
よしよし。と、歌詞太郎さんが私の頭をなでる。
懐かしいな。この感じ。
「ねぇ。歌詞太郎さん。聞いてもいい?」
「うん?」
みんなもきっと、疑問に思ってるはずだよね?
なんでお兄ちゃんの幼馴染で、小さいころから一緒に遊んだりしているのに敬語なのか。呼び方が「さん」「ちゃん」なのか。
「なんでみんな突然私を避け始めたの?」
「えっ……」
そう。元々こんなに距離があったわけじゃない。
最初は呼び捨てだったし、ため口だった。
なのに、私が中学生だったある日お兄ちゃんから言われた。今度からみんなに敬語使ってって。
突然のことだったし、納得したわけじゃないけど、お兄ちゃんの顔が真剣だったから了承した。
その条件を飲んだ後、それまで呼び捨てだったそらるさんはちゃん付けで呼ぶようになったし、私も一緒にどこかへ遊びに行ってくれることもほとんどなくなった。
そんなこんなでもう私は高校三年生。たった数年でも、私はつらかった。
「私……何かしたのかなぁ?」
ジワリと涙がにじむ。
「あああぁ……。そ、そろそろいい時間だから、いったん帰ろう?帰ったら、そのこと、みんなに聞こう。みんなで答えるよ。ちゃんと」
「…っ……。うん……」
歌詞太郎さんの手を取り、家に向かった。