第4章 何か。
「ひさしぶり~」
「たしかにね~」
ここのゲームセンターはお兄ちゃんたちが学生の時は良くみんなできていた。
しかし、歌い手の活動が忙しくなってきてからはめったに来なくなってしまった。
「あ!」
UFOキャッチャーがズラリと並んでいる中、景品としてお兄ちゃんたちのぬいぐるみがあった。
「うわ~。恥ずかしい……」
歌詞太郎さんは自分たちのぬいぐるみが置かれている台をまじまじと見つめた後、赤面して笑っていた。
「ばれたら、やばいかな…?」
私にはこんなに近い存在とはいえ、周りから見たらそこには人気歌い手の伊東歌詞太郎がいるわけで。
世の女子高生らが休みでゲームセンターにいっぱいいる今、ばれたら命が危ないかもしれない……。
冷や汗をかきつつ歌詞太郎さんをちらりと見ると、きょとんとしている。
「大丈夫だよ~。僕ほら、いつもお面付けてるから」
そう。歌詞太郎さんが活動するとき、基本的にはキツネ面で顔半分を隠している。
だからよほどのことがなければばれることはない……のかもしれない。
「で、でも……」
やっぱり違うところのほうがいいかもと言おうとすると、唇に歌詞太郎さんの人差し指があてられる。
「ダメだよ。優香ちゃん、遊びたいでしょ?僕のことなら気にしないで。大丈夫だから。何かあったら逃げればいいんだよ!」
ふふふと笑う。
いや…そんなに遊びたいわけではないけど……。
でもここまで言ってくれるなら。遊んじゃいましょうかね!
さっそく…と、目の前のお兄ちゃんたちのぬいぐるみの台に手をかけると、「それだけはやめて」と肩をつかまれたので諦めた。
「……じゃあこれは?」
大きなクマのぬいぐるみが入っているUFOキャッチャーを指さす。
「あー……。まぁ…セーフかな……?」
「セーフ??」
「あ、ううん!!何でもないよ!やってやって~」
少し引っ掛かりながらも100円を入れ……。あ。
「お金……ない」
強引に追い出されたものだからお財布を持って出てこなかったのだ。
諦めるか……。かわいいのに……。
「あ。ぼくがやるよ」
スッと場所を代わり100円を入れる。
ピロリンと音がして、歌詞太郎さんの顔は真剣そのもの。
……取れるといいなぁ。