第2章 中編
アーデンが部屋に入ると、すぐさまユーリと目が合った。
両者の間で重い沈黙が流れる。
ユーリはアーデンが珍しく怒りの感情を露わにしていると気づいた。
それは、クリスタルに対してか、ユーリがルシスに潜入したことに対してか。
答えなど聞いたところで素直に教えてくれないだろう。
ユーリはそっとため息を吐くと、重い口を開いた。
「…今度こそ私を殺しますか?」
ユーリの放った言葉にアーデンは目を細める。
「先に言っておきますが、死にたがりなわけではありません。ルシスへの潜入、更には信じがたいですがクリスタルが私の体内に入っている。この2点だけでも私への殺意は計り知れないものでしょう。後者は不本意なものですが、私が行った行為は処刑に値してもおかしくないと思ってます。だから、どうぞ好きなように処罰を与えてください」
ユーリは真っすぐとアーデンを見据えながらそう伝えた。
ここで殺されるなら、それまでの運命だったのだろう。
彼を助けるなど、私なんかでは到底無理な話だったということだ。
「…前者はともかく、なんでクリスタルの存在が殺意に繋がるんだ?」
「あぁ、言い忘れていました。これも信じがたいですが、どうやら私が不在していた10年間の間に、2000年前の出来事を見てきました。見たと言っても夢のような感覚ですが。そこでアーデンがルシスとクリスタルを恨む理由を知りました。あと、なぜシガイとなったのかも」
ユーリが一気にそこまでいうと、一瞬アーデンは驚いたような表情をしたが、すぐさま舌打ちが返ってきた。
彼女の話の信憑性は分からないが、クリスタルがソコにあることが全てを物語っているようだった。
「…へぇ。じゃぁその過去とやらを見てきてオレに同情でもしているの?」
アーデンはゆっくりとユーリに近づいた。
その瞳には、明らかな憎しみの感情が宿っていた。
「私があなたを同情するような人間に見えますか?過ぎた過去はどうしようもないことです。どうにか出来るとすれば、未来でしょうか?もうだいぶ年老いてますが、運命に抗うくらいの気力は残っているでしょう?」
臆することなく発した彼女の言葉が静かに響き渡る。
アーデンの足は、その場で止まった。