第1章 前編
「じゃぁ答え。それはこの箱の中にあります」
そう言って手元の箱をユーリに見えるようにかざしてきた。
あぁ、やっぱりそうだったのか。
箱の中に入っていたサンプル、粒子。そして近くに散らばっていたそれらに関する書類。
答えなど、始めから分かっていた。
目的は分からないが、この男はシガイの研究をして、無駄に増やしてるのだろう。全くもって傍迷惑な話だ。
あ、いや、目的はルシスを滅ぼすことか?
…全くもって傍迷惑な話だ。
「これって生きた人間をシガイ化できるんだよねぇ」
「はぁ」
「相変わらずリアクション薄いね。これ研究するの結構時間かかったのに」
「それはお疲れ様です。その労力は、もっと人の役に立つことに使ってください」
ユーリはもう色々諦めていた。
シガイが元は生きた人間だったのはショックだが、私1人が悲しんだところで何も変わらないだろう。
なるほど、これだけ考えると私も中々に非道な性格をしている。
目の前の男の性格が移ったのだろうか。
「役立ってるじゃん。実際にこの国の兵力になってるし」
「それはおめでこうこざいます」
「それ、何に対しての祝いの言葉?」
「努力の成果が実ったことに対しての」
その言葉に男はまた笑った。
本当にこの男はよく笑うんだな。
その原因を作っているのはもしかして私なのか?
おかしいな。私はギャグセンスなんて持ち合わせていないのだが。
「うん、やっぱりいいね。だから君もこっちに来なよ」
「こっちってどっちですか」
「闇の世界」
「随分と抽象的ですね。よって行き先が分かりませんのでお断りします」
「残念なことに君には拒否権ないんだよねぇ」
「そうですか。それは残念で仕方ありません」
手元の箱を弄びながら意味ありげな笑みを浮かべてくるアーデン。
もうそれだけで、彼が何をユーリにしようとしているのか分かってしまった。