第1章 前編
面白そうな玩具だったから暫く遊んで、飽きたら壊そうかと思ったけど気が変わった。
恐らくこの女は、アレを見たんだろう。
にも関わらずこの態度。
死を覚悟してるからこそできる芸当かもしれないが、まず普通の人間はそんな簡単に死を覚悟しない。いや、出来ない。
少し興味を持った、初めて欲しいと思った。だから彼女を、闇に引きずり込むことにした。
さて、次はどんな面白い反応をしてくれるのだろうか。
アーデンは高揚する気分に笑みを隠すことなく、ゆっくりとした足取りでユーリに近づく。
そしてユーリもこれまた同じく、ゆっくりとした足取りで離れて行った。
まぁ、別に今はそれでいい。
今の目的はこの箱なのだから。
「ねぇユーリ。魔導兵って何から出来てると思う?」
「知りません。後教えなくて結構です」
「実はアレってシガイなんだよねぇ」
「人の話聞いてます?目の次は耳まで遠くなったんですか?」
新たに与えられた冥土の土産。本当にこの男は何がしたいのか。
止まらないため息に、きっと私の幸せは全てなくなっただろう。
いや、そもそも産まれた時から大して持ってなかったか。
そう自称気味に笑ったユーリを、アーデンは少し興味深そうに見ていた。
「驚かないんだ?」
「もうすでに色々と十分に驚いていますので、これ以上驚きようがないです」
「ふぅん。やっぱりユーリって面白いね」
「ありがとうございます」
「別に褒めてないけど」
「でしょうね」
売り言葉に買い言葉。一体いつまでこの茶番劇は続くのか。
そうユーリが考え事をしていると、いつのまにか自分が窓の近くまで下がっていたことに気づいた。
「じゃぁ次の質問、シガイは何から出来てるでしょう?」
「そのクイズ形式やめてもらえませんか?無駄だと思いますが答えはいりません」
「遠慮しなくていいよ。オレと君の仲じゃないか」
「どんな仲かは存じ上げませんが、少なくとも相反する仲だと思いますよ」
「へぇ?例えば、闇と光とでも言いたいの?」
男の言葉には棘があるように思えた。
そういえば先ほど世界を闇で閉ざすと言っていたが、あれはどういう意味なのだろうか。