第2章 中編
さっきまでこの部屋は誰もいなかったはず。
ユーリは驚いて一瞬悲鳴を上げそうになったが、何とか留まり振り返った。
「…!?っが」
だが振り返った瞬間、目に見えない力で壁に押さえつけられた。
首を手で絞められているような感覚に、ユーリは何のつもりだとアーデンを睨みつける。
だが、もしユーリの行動が国際問題に発展して、争いが起きている原因だと考えると、彼の行動を責める権利はなかった。
瞬殺されなかったのは、一応恋人としての情けを掛けてくれているのか。
ユーリは殺気を消すと、好きにしてくれと力を抜いた。
「…さっさと答えてくれない?オレ、待つの嫌いなんだけど」
ユーリが別のことで物思いに耽っていると、そう言えば最初に質問されたのを思い出した。
「それってどれですか?」
「へぇ、誤魔化すの?」
「流石の私もテレパシーは使えないので、主語と述語は言ってください。あぁ、そういえばあなたは異世界から来た人でしたね。残念ながらここは地球なので地球の法則に従ってください」
ユーリの言葉にアーデンの表情は無表情のままだ。
恐らく内心は、この状況でよくそんなことが言えるとでも思っているのだろう。
普段ならそう軽口を叩いてくるが、アーデンの周囲から流れてくる不穏な空気に、今回ばかりはマジギレしてる可能性が高い。
いや、ユーリの行動は最早死刑レベルの重罪なので、彼でなくても怒るだろう。
かと言って死んで許されるものでもないので、ユーリとしてもどうしていいか分からなかった。
そもそも何故クリスタルがないんだ?
そしてなぜニフルハイムはこのタイミングでルシスに攻め込んだ?
一瞬とはいえ、王子を人質に取った挙句、勝手にクリスタルの間に入った苦情が帝都まで届いたのか。
いや、それにしても早すぎるだろう。
ユーリが悶々と考え込んでいる間も爆音が止まない。
仕舞には、無線からルシスを制圧したとまで入ってきた。