第1章 前編
「設定…ですか。ならば、あなたはどんな設定を作ってるんですか?」
「へぇ、否定しないんだ」
「肯定もしてないですけどね」
その言葉を最後に2人の間で暫し睨み合いが続く。
そもそもこの男相手に駆け引きをしようとした時点で間違ってたかもしれない。
こんなことなら、さっさと窓から飛び降りて万が一の奇跡にかけた方が、よっぽど生存率が高かっただろう。
頭は良く回ると周りから言われていたが、流石の私も動揺して判断を誤ったか。
だって、アンナモノを…
「オレはソレを使って、世界を闇に閉ざし、ルシス王家でも滅ぼそうかなと思ってるよ」
何ともしれっと放たれた爆弾発言に、ユーリは思わず目眩がした。
なんだこれ、冥土の土産か何か?そんな情報、貰っても嬉しくともなんともないんだが。
「随分と大掛かりな設定ですね。流石ニフルハイムの宰相様は考える事が違う。私は応援してますので是非頑張ってください」
「応援してくれるんだ?」
「えぇ、それは好きな人がする事ですし」
ユーリのその言葉に、目の前の男から初めて笑みが消えた。
そして何かを考え込んでいる仕草に、漸くこの茶番劇も終わり死ねると思った。
いや、別に死にたかったわけではないが。
「そっか、うん。君のこと気に入ったよ」
「ありがとうございます」
「だからいいよ、付き合ってあげても」
「……」
男の予想外の言葉に、ユーリは思わず絶句した。
そして冷めた表情で目の前の男を見る。
「あれ?なんで無言?」
「…いえ、ちょっと、びっくりしまして」
「そんなに喜んでもらえるなんて嬉しいよ」
「この表情を見てよくそんなこと言えますね。流石の宰相様も老いには勝てないんですね。一度眼科に行くことをお勧めします」
「ほんと、減らない口だねぇ」
「こうでもしないと正気を保ってられないくらい動揺してますので」
ユーリのその言葉に、男は声を上げて笑った。
そんな男の姿を、ユーリはただじっと見ていた。