第2章 中編
「一般人相手に手加減なしですか」
ユーリは軽く顔を引きつらせると、周囲に視線を巡らせ打開策を考える。
ーーー無知とは、ときに残酷な現実を与えることになる
「いや、もっと分かりやすく言ってくださいよ」
進む気配のない話にユーリは苛立ちを感じたが、彼がそれ以上話すことはなかった。
こちらに真っすぐ向かってくる剣先。
打開策を考えるまでもなく、迫ってくる死。
ーーーやはり、私はここで死ぬのでしょうか
全ての動きがスローモーションのように感じる。
そもそも神相手に、勝てるわけがない。
脳裏に浮かんだのは、いけ好かない性格をしている彼の姿。
王都に着く前に止めたかったけど、やはり無理だったか。
ユーリは来る衝撃に備えて目を閉じると、周囲が炎に包まれた。
アーデンがクリスタルの間に案内されると、そこには驚いた表情のエイラと弟がいた。
彼らの話を聞くと、やはり罠だったようだ。
アーデンを庇い斬り裂かれたエイラを腕に、目の前のクリスタルを見上げる。
闇に染まったアーデンの姿は、最早人ではなかった。
血まみれの身体を引きずりながら、クリスタルに近づく彼に容赦ない攻撃が襲い掛かる。
それでも彼は歩き続けた。
血濡れの階段は、彼の人生を物語っているようだった。
ーーーこの星の犠牲になれと言うのならば、なってやろうじゃないか。
アーデンはクリスタルに手を伸ばした。
アーデンもまたユーリのように、己の存在の意味を察っしていた。
確証も何もない、ただの勘だったが。
ーーーだけど、それ相応の対価があってもいいんじゃない?
無償で犠牲になってあげるほど、オレは善人ではない。
アーデンは口の端を吊り上げた。
ーーーーなぁ、神様?
アーデンの手がクリスタルに触れた時、眩い光が辺りを照らした。