第2章 中編
そして時が流れる。
「クリスタルはアーデン様をお選びになりました」
体調の悪化が激しくなり始めた頃、その言葉は伝えられた。
「どうぞ、ルシスにお戻りください」
突然現れた従者と伝えられた言葉に、アーデンが感じるものは何もなかった。
元々国王になりたかったわけではない。
強いて言えば、民が望むなら仕方ないと思ってたくらいだ。
「……ちょっと、時間くれるかな?夜までには戻るから」
アーデンはそれだけいうとその場を立ち去った。
従者が一瞬迷う素振りを見せたが、彼を止めることはしなかった。
アーデンが向かった先は、彼女がいる滝だった。
毎日そこにいるわけではないようたが、今日は運よくそこにいてくれた。
「…行かない方がいいですよ」
滝を眺めている彼女の後姿に近づくと、彼女は振り返ることなくそう口にした。
「…何でそう思う?」
アーデンは彼女の隣に立つと、同じように目の前の光景に目を向ける。
何処へ、そう聞かなくても彼女が言わんとすることを察した。
何故彼女が国王の選定を知っているか疑問に思うが、最早どうでもよかった。
「あなたも薄々感じていると思っていたのですが、なるほど、中々能天気な頭をしているようですね」
「…ほんと、最後まで辛辣なのは変わらないね」
アーデンが口にした最後という言葉。それに彼女が反応したのが分かった。
「例え罠だとしても、オレは行かないといけないんだよ」
「死にたがりですか?」
「……いや…」
彼女の問いかけにアーデンは珍しく言葉を濁した。
ルシスに行く理由は、民の期待に応えるためか、この穢れた身体を救って欲しいのか、それとも彼女が言ったように死に場所を探しているのか。
考えたところで、答えは出ないだろう。
ここ最近エイラの姿を見ていないので、恐らく罠の可能性が高い。
本当にクリスタルに選定されたのならば、彼女は自ら伝えにくる可能性が高いからだ。